覚醒屋の源九郎 第一部

流川おるたな

六災竜ヴァルカン

「すまんすまん、やり過ぎた。そう怒るなって」
「そりゃ怒るじゃろ!交渉も何もあったもんじゃないわい!」
 もはや謁見の間は大地震でもあったあとのような散々な有様となっていた。
 そんな状況の中、部屋の扉を荒々しく開けてカルンが王の下へ駆け寄る。
「ダリク様失礼します!緊急でお知らせしなければなりません!」
「そんなに慌ててどうしたのだカルン。こちらも大変な事になっておるが」
「六災竜のエンシェント・ドラゴン、火竜ヴァルカンが突如として現れ城下町で暴れているのです」
「まさか!?エンシェント・ドラゴンだと!?」
 ダリクの顔が急速に蒼ざめる。
 精霊妖精界にはドラゴンが存在するのだが強さ的な階級があり、普通の強さで最底辺のドラゴン、その倍の強さを持つエルダー・ドラゴン、更にその2〜5倍の強さを持つエンシェント・ドラゴンだ。
 エンシェント・ドラゴンはこの世界に全部で6頭現存し「六災竜」と呼ばれ、それぞれ光、闇、火、氷、水、風の属性がある。中でも光のエンシェント・ドラゴンが抜きん出て強く最強とされている。
「この猿は捨て置け!総動員でヴァルカンに当たるのだ!」
 ダリクが命令を下すと全員が素早く外に飛び出して行く。
 謁見の間にはダリクと太公望、悟空の三人だけが残った。
「おぬしらの様子からしてそのドラゴンはかなりヤバそうじゃのう?」
 太公望の問いかけに災難の続く王が頭を抱えながら返す。
「ヤバイなどというレベルではない。運が悪ければ1時間と経たぬ内にここら一帯は焼け野原となるだろう」
「そうか...」
 何かを思いついたのか太公望が不敵な笑みを浮かべる。
「ダリクよ。ものは相談なんじゃが、わしと悟空でドラゴンを打ち倒した暁には、悟空を免罪として、今後は友好的関係を結ぶという約束は出来んもんかのう?」
 王の表情が固まる。どうやらゴチャついた頭の中で検討しているようだ。
「その猿は確かに強い。だが相手は六災竜のエンシェント・ドラゴンだ。こやつでも果たして相手になるかどうか...」
「やってみなければ分からんよ。それとも、おぬしの部下や国民が皆殺しになっても善いのか?」
 王の表情は悲壮感すら漂い始めていた。
「...よかろう、もしドラゴンを倒す事が出来たなら、その猿を免罪とし友好的関係を結ぼうではないか」
「まさか二言はないじゃろうのう?」
「ない!このアザーム王ダリクの名にかけて誓おう!」
 太公望がニヤける。
「行くぞ悟空!」
 悟空が去り際にダリクに向かって言う。
「相手が何であろうとこの斉天大聖孫悟空様が倒してやるよ!」
 二人は城下町へと駆けて行った。
 だが、勢い良く外に出て町の光景を目の当たりにした二人は衝撃を受ける。既に町の半分が焼け野原となり、その中央で暴れているドラゴンの姿がアザーム城と同等の大きさの巨体をしていたからだ。

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