覚醒屋の源九郎 第一部

流川おるたな

国のために

 皆が押し黙っているなかカルンが話し出す。
「かつて我らの国はそこの猿に王を殺され一度滅ぼされた。その時の絶望感は国民の誰しもが感じていたが、生き残った者たちは絶望の淵から這い上がり、血の滲む様な努力によって当時の国力の9割を取り戻す事に成功している。その偉業を成し得えたのは命があったからこそだ。何があっても生きていれば何とかなる!我々はそう学んだ筈。ここで我々が命を落とす事は、果たして本当に正しい事だろうか!?一時の感情に流されず太公望の条件を呑み、命を繋ぎ別の形で国に尽くせば良いのではないか!?皆もよく考えてくれ!」
 カルンはジオンの考えに賛同し、他の者を説き伏せた。
 場の空気は相変わらず重かった。
 意を決したのかミリシャがゆっくりと手を挙げる。
「国のためだ。あたいはジオンとカルンの判断に身を委ねるよ」
 ミリシャに続いて残りのダークエルフ全員が手を挙げようやく全員の意見が一致し、ジオンが代表して太公望に告げる。
「我々は全面降伏する。イバシュ王子の件もその条件でよろしく頼む」
「ふむ、了解じゃ。だがダークエルフの意思はそれで良いとして、アンズーらの意思確認は大丈夫かのう?」
「ああ大丈夫だ。こいつらは長い間我らの同胞として共にいる。言葉を話す事は出来ないが意思は通じている筈だ」
 これで取り敢えず話はまとまったようである。
「そろそろおぬしらの国に向かうとするかのう」
「待ってくれ太公望!お前は我らと共に国に入れるが、そこの猿は無理だ。国の者に見られようものなら即刻大騒ぎになるぞ」
 カルンがもっともな意見を言う。
「そうじゃのう...」
 自分が入国している間は、悟空には何処かで暇つぶしでもして貰おうかと考えていた太公望だったが、よくよく考えてみれば少しでも目を離せばまた問題を起こしかねない。思案しているところへ悟空が話し掛ける。
「そんなの簡単な事だぜ太公望。見てろよ〜ホイッと」
 そう言うと悟空の身体はみるみるスプーンおばさんのサイズまで小さくなった。
「おぬしそんな芸当も出来るのか!?神通力というのは本当に万能じゃのう」
 珍しく褒められた猿は照れながら小躍りしている。
「カルンよこれで大丈夫じゃな?この大きさでわしの腰巾着にでも入れておけば、人の目につくかずに済むじゃろうよ」
「分かった。だがくれぐれも気をつけてくれ」
 ダークエルフは浮遊術、アンズーは翼を広げ上空まで飛んだ。
 悟空は一旦元のサイズに戻り、觔斗雲を呼び寄せ太公望と一緒に飛び乗り上空まで上昇する。
 こうして一行はダークエルフの国にへ向かったのだった。

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