覚醒屋の源九郎 第一部

流川おるたな

待ち伏せ

「はて、あれは一体何じゃ?物凄いスピードでこちらに向かって来ているようじゃが。悟空よ、おぬしなら見えるんじゃないかのう?」
 遠くの山の方を観ていた太公望が何かを見つけ、その方向を指差し問う。
「あーあれか?はっきりではないが見えるぞ。人型の奴が10体と鳥みたいな奴が5体ほどの集団だな」
「そうか、恐らくこのゲートに向かって来ておるんじゃろう」
「一飛びして確かめて来ようか?」
「いや、ダメじゃ。仮に敵だとしたらおぬしは間違いなく暴れまくるじゃろ?あの数を相手に暴れられると噂が広まり今後の動きが制限されかねんからのう...」
「ケッ、逆の意味で信用されてんな。じゃあどうすんだ?待ち伏せでもってしようってのか?」
「そうじゃな〜待ち伏せてみるかのう。悟空よ、念のため觔斗雲をスタンバっといてくれんかのう」
「分かった待ってろ」
 悟空は腰に縄で吊り下げていた瓢箪を持ち手に取り栓を抜く。この瓢箪は仙人界の太上老君が所有していた宝貝、紫金紅葫蘆(しきんこうころ)を觔斗雲専用として模作された下位互換の代物である。
「出てこい觔斗雲!」
 瓢箪から煙が溢れるように排出され、悟空の横に元々の觔斗雲の形となって現れた。
 二人は洞窟に戻り、身を隠せる場所を探して未確認の集団を待ち伏せた。
 暫くして静かだった洞窟の外が騒がしくなる。
「ミリシャ、ゲートの洞窟ってここら辺だろ?」
「イバシュ様に直接教えて頂いたからこの辺りで間違いない」
 男女が会話する声が聞こえた。
「おい太公望、外から邪悪な気配をビンビン感じるぞ。敵と判断して良さそうだが、どのタイミングで出て行くんだ?」
「奴らが洞窟内に入って来たらわしが仕掛ける。それを合図にいつでも動けるようにしておれ。たっぷり暴れて良いぞ」
「言われんでも暴れまくってやるぜ」
 本当のところ、悟空は直ぐにでも外に出て暴れてもおかしくない様子。
「おい!こっちに入り口があるぞ!」
 集団の一人が洞窟の入り口を見つけ、周囲を探している者達に呼びかける。
 一人が洞窟内に入って来るのが見えた。続いて洞窟内にゾロゾロと他の者達も入って来る。
 悟空はとっくに何者か分かっているのかも知れないが、洞窟の暗さもあってか太公望の方は相手がかなり近付いてから何者かをようやく認識することが出来た。
 人型はダークエルフ。悟空が鳥と表現したのは魔獣アンズーである。
 アンズーは鷲のような体に獅子の頭が付いており体長は5m近い。風と雷を起こせる妖精と称される事もある魔獣だ。
 太公望は動いた!
「轟け!雷公剣!」
 宝貝雷公鞭の模倣品で形も剣である雷公剣を渾身の力を込めて一振りすると、剣先から自然の雷に匹敵するエネルギー量の雷(いかずち)が一直線にほとばしる。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品