覚醒屋の源九郎 第一部

流川おるたな

部長

 谷口さんに自己紹介された時に、違和感というか何か引っ掛かっていたのだけれど、そう言えば部長の名字って谷口だった!1年以上会ってなかったから直ぐに思い出せなんだ。
 この幽霊部長はずっとしかめっ面でこっちを見ている。トラウマ的な事もあるので少し目を合わせ辛い。
 うーむ、二度と会いたくない人に会ってしまった。幽霊としてだけれど。
「あの〜、谷口さん。ひょっとして今あなたの左後ろにいらっしゃる方が御主人ですか?」
 谷口さんが自分の左後ろを確認する。
「誰も居ませんけど...」
 部長は消えていた。おいおい何のつもりだ部長。と言うか見た目はかなり若返ってる俺を、かつて会社の部下であった俺だと分かっていて睨みつけてたのか!?
 キョロキョロ辺りを見回すが部長の姿は見えない。
「つかぬ事を伺いますが、御主人は石橋フーズという会社にお勤めでは無かったですか?」
 はっきりと表情で分かるけれど谷口さんは驚いているようだ。
「なぜ分かるんですか?倒産して今はありませんが、以前は確かに石橋フーズという会社に勤めていました」
「そうですか。いえ少し思い当たるところがありまして」
 やばい、思考が追いつかない。
 えーっと。
「ミーコさんお茶はまだかな?」
「只今お持ちしまーす」
 ミーコの入れてくれたお茶を谷口さんにも勧めて一息つく...!?
 俺の右横に気配を感じる。
 霊感など無いのだけれど...
 恐る恐る横を見ると、その距離10cmの超至近距離に部長幽霊がいらっしゃった。口からお茶を全開で吹き出しそうになるがなんとか根性で堪えた。
「谷口さん、私の右横に御主人が見えてますか?」
 お茶を静かに飲む谷口さんに問いかける。
「...すみません、何も見えません」
 確認するとまた消えていた。
 ははーん。部長め、楽しんでやがるな。
 ん、部長と二人きりになれば、もしかすると会話も可能なのではないか?幽霊が話せるか知らんけど。
「谷口さん大変恐縮なのですが、暫くの間二階の私の部屋で待機して頂けないでしょうか?」
 返答に困っている。
 そりゃそうだ。
 今日会ったばかりの知らない男の部屋で待機してくれ何て言われても困るよな。谷口さんの反応が普通に当たり前というものだ。
「あの〜、仙道に御主人の件で何かしらの考えがあっての事だと思います。ご案内してわたしもご一緒に待たせて頂きますので」
 ミーコ!ナイスフォロー!
「分かりました。もし、主人がここに居るのであれば、わたしから伝えたい事もありますので、その際はどうかよろしくお願いします」
「ご理解ありがとうございます。じゃあミーコさんご案内して」
「はーい」
 ミーコは俺にウインクして谷口さんを二階に案内した。
 この事務所には今のところ俺一人である。
「部長!男同士二人きりで話しましょう!」
 居るはずの幽霊に声を掛けた。

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