覚醒屋の源九郎 第一部

流川おるたな

大丈夫

「契約ですか...」
俺とミーコ、泉音とルカリのような関係が少年にも生じた事はまず間違い無いだろう。
「話しを続けていただけますか?」
「勿論です。それからずっとそいつに付き纏われていていました。3日後にある事件が起きたんです」
「事件?」
「買いたい物があって商店街に出掛けたんです。表通りを歩いていたら裏通りの方から怒声が聞こえてきました。気になって駆けつけると1人の女子高生が5人組の不良グループに絡まれていて、それを止めようとしたら袋叩きにされてしまって...」
阿波尻少年の話しがまた止まってしまった。
「阿波尻さん、大丈夫ですよ。麦茶でも飲んで一息つきましょう」
「ありがとうございます」
二人とも麦茶を飲んだあと、阿波尻少年は続きを話し出してくれた。
「執拗に蹴られたり殴られたりして僕の中で不良グループに殺意が芽生えたんでしょう。良くないことだと分かってますが、怒りに任せて“殺してやる”と叫んだんです」
人間が人間に殺意を覚える事は、原始的本能から考えると誰にでも起こり得るだろう。だが法治国家において危険性のある言葉である事は確信的だ。
「叫んだ後どうなったんですか?」
「実はその後の記憶が全く無くて、気付いたら不良グループの全員がボロボロになって倒れていました。僕は怖くなって、同じく倒れてい女子高生を担いでその場から立ち去ったんです」
「そうですか、不明な点はありますがだいたい理解できました」
俺は昨日の夜、泉音が言った映画“グレムリン”の話しを思い出していた。
 泉音が見かけたのはこの少年と...今まさにテーブルの上で座し、俺の目の前で不気味な笑みを浮かべている生物の事だろう。
「阿波尻さん、ちょっとだけ待ってていただけますか?」
「あ、はい構いませんが...」
「ミーコ、コイツも妖精か?」
「そうだよ、“グレムリン”って謂う妖精の種族なんだけど悪戯好きなのがたまに傷かな」
こいつには失礼だが、ケット・シーやエルフと違って可愛いらしさは皆無。映画のグレムリンに出てくるキャラほど不気味では無いが、実際に見るとちょっとグロくて不気味だ。
「初めましてグレムリンさん」
「ケラケラケラ、治志と違って普通に話しかけてくれたな。喜ばしい事だぞ」
「とりあえずテーブルから椅子に移動してもらえるか?」
「お、いいぞいいぞ」
グレムリンは驚くほど素直に椅子へと移動してくれた。
少年は驚いた顔をして俺の方を見ている。
「そいつが怖く無いんですか?」
「あ、ああそうですね。驚きはしましたけど怖くは無いかもです」
普通の人間がいきなりグレムリンを見たら恐怖心を覚えるのが当たり前だ。だが俺は2種の妖精と面識があり、耐性が整っているのかグレムリンを見ても恐怖心は湧いて来なかった。

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