覚醒屋の源九郎 第一部

流川おるたな

やるせなす

 子供のパンチとはいえ、鳩尾に決まればそりゃ息も止まるというもの。俺はその場で腹部に手を当て蹲り、
「なんて日だっ!!」と心の中で叫んだ。一日の間で違う誰かに強烈なパンチを貰うなどと稀有な経験をした上、善意で手を差し伸べた結果がこれでは少しくらいこの子に怒りをお覚えたとてどこの誰が責められようか!?
 だが俺は怒りを抑え耐えることが出来た。
「くっ、良いパンチ持ってんじゃねーか。将来有望だなぁ」
と話した直後に顔めがけて蹴りが飛んできた!が、流石に今度は手で足を押さえ込んでやった。
「ストップストーップ!」
俺は男の子の足から胴体の方に手を回し、完全に持ち上げて諭そうと努力する、
「君らに対して悪意は全くない!むしろ助けになるかもしれないぞ〜妹が泣いてる訳を話してみないか?」
男の子は「離せ離せ」と喚いていたが数秒後には大人しくなり、心のダムが崩壊したのだろう、大粒の涙を流しながら泣き始めた。
「にいにいはいま大変だから、代わりに私が話す」
いつの間にか女の子が泣き止み声をかけて来た。
男の子を地面に下ろしても立ったままで泣き止みそうにない。
「そうだね、お兄ちゃんは頑張って疲れてるみたいだから君から話を聞こうかな?」
「うん!」
「じゃあ自己紹介から!俺は源九郎って言うんだけど、お嬢さんのお名前は?」
「葵!」
「葵ちゃんよろしく!じゃあ、そこの公園でお話しを聞こうかな」
俺が右手を差し出すと、葵ちゃんが手をぎゅっと握って来る。そのまま少し泣き止んだ感のある男の子の手を握り、マンション隣の小さい公園へ移動した。

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