異世界になったこの世界を取り戻す

文戸玲

過去にある現在⑮~ペンダントの女~



 村に戻ると,人々は慌てふためき,怒号や取っ組み合いが起きていた。近くにいた人に何かあったのか尋ねると,「長老が殺された」という返事が返ってきた。ベルが一目散に屋敷へと飛ぶように走っていったのをみんなで追いかけた。

「何があったの!?」

 ベルが屋敷の入り口にできた人だかりを這うようにして進み,叫んだ。そうしてできた道を後ろから続いていく。突如,ベルの足が止まった。そして,長老のもとへと駆け寄り,足元に這いつくばるような格好になった。長老の胸には,一本の剣が刺さっていた。

「誰よ・・・・・・こんなひどいことをしたのは」

 ベルが床を叩きながら言う。長老の脈に触れたが,体を動かすための機能はすでに失われていた。体もずいぶん冷たく硬直している。きっと,みんなでバーボンたちと戦っているときにはすでにやられていたのだろう。誰がやったのか。思い当たる人物は一人だけだった。

「ねえ,どうしてこんなことが起きたの?」

 ベルが近くにいた従者の肩を揺さぶり,問いかける。「少しの間外して戻ってきたらこうなっていました。すいません」と力なく従者は返した。村の人たちは誰も悪くないのに,重い沈黙が場を支配した。
 ベルのもとへ行ったジャンが,口を開いた。

「すまない。きっと,おれたちの世界から来た奴がやった。そいつは時空を超える力を持っている。この世界を自分にとって都合の良いように変えようとしている。そいつにとって,この長老はじゃなま存在だったんだろう。必ず敵をとる」

  ベルが顔を上げた。その表情は苦悶と怒りが滲み出ている。

「そいつの場所はわかるの?」
「いや,今はまだわからない。これから何としてでも探し出す」

 どうやって,とベルは呟いた。時空を超える人間をどうやって探すかと絶望している。それもそうだ。何を手掛かりにして探せばよいのか,実際まるで見当もつかなかった。しかし,それは杞憂に終わった。

「その心配はいらないわ」

 人ごみの後方から声がした。透き通るガラスのような声だった。まるでその声に不思議な力が働いているように,人々は道を開けた。そこにいたのは,ペンダントをした金髪の女だった。

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