異世界になったこの世界を取り戻す

文戸玲

過去にある現在⑩~決着~



 勝負は思わぬ形で決着した。自分の拳がチチカカに届く手前で,こちらの顔面にヒットした。その後,殴打されたがなんとかガードを固めて耐え抜いた。手数は相手の方が圧倒的に多いうえ,一つひとつが重かった。勝負は一発。それしかないと直感していた。渾身の一発を決めれば,のすことができる。
 相手は防ぐことしかできないと高をくくったチチカカは,終わりよ,と呟いて大きなモーションをとった。そのすきを捉えてチチカカの顎にめがけてジャブを打った。拳は見事に顎を捉えチチカカは一瞬ぐらついた。体勢を立て直した時には,すでに脇腹にストレートを叩き込んでいた。メリメリと骨が破壊される音がした。それでも容赦なく,素早く背後に回り込み,チチカカがこちらに振り向いたと同時に顎をめがけて腕を振りぬいた。チチカカはそのまま地面にあおむけで倒れこんだ。
 勝った,拳を握ったまま呟いて,近くを見渡した。勝負ありだ。命をとるまでのことはしなくていいだろう。ただ,何か手ごろなもので縛るか何かして身動きの取れない状況を作っておかないと何があるかわからない。
 チチカカに背中を向けたとき,背筋が凍り付いた。確実に自分に死が迫っている,そう感じさせる冷酷で氷のように冷たい気配が全身を粟立たせた。

「誰が終わりといったの? 惜しかったわね。結局そういうところで勝負は決まるのよ」

 覚悟を決めた。防御の構えをとりながら後ろを振り向いたと同時に,ドスっと鈍い音がした。
 チチカカの胸に弓が突き刺さっていた。

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