異世界になったこの世界を取り戻す

文戸玲

過去にある現在②~村の長老~


 いいところへ連れて行ってあげる,というベルについて村を奥へ奥へと進んでいった。村人達が大人から子どもまで精を出して百姓仕事をこなしながらも,見慣れない客人を物珍しそうに見ている視線を感じる。リスさんだ,と嬉しそうにはしゃぎながら走り寄ってくる子ども達にミュウと遊ばせたり触らせたりしながら進んでいると,長い距離を歩いたわけではないのにずいぶんと時間がかかった。その子ども達の中には食道で見かけた顔もあったので,事情を知っているジャンもバオウも催促することなく子どもとミュウがじゃれ合うのを微笑みながら見ていた。おかげでずいぶんと時間はかかりはしたが,目的地に着く頃にはベルまでもが満足そうな顔をしていた。
 ありがとうな,と呟いた後に目の前の大きな屋敷を指さした。

「ここが連れて行きたかったところだ。きっと,あんたたちの役に立つはずだ。この奥に長老がいる。村のことなら何でも知っているし,よその国にも顔が利く。情報を集めているんだろ? 良い情報が手に入ると良いんだが」

 そう言って仕切りになっているカーテンをめくり,大きな声で呼びかけた。二三言中の人と言葉を交わした後にこちらに顔を覗かせ,手招きした。入って良いということらしい。
 大きな造りになっているが,中は部屋一つになっており,一番奥の王座のような椅子に長い髭を垂らした老人が詩をかけている。きっとあの人が長老だ。
 躊躇もせずにバオウが先頭に立って老人の元へずんずん進んでいった。

「人を探している。胸に大きなペンダントをつけている女を知らないか? 金髪の髪をした女だ」

 無礼な,と側近が横に付いていた槍を持って身構える。部屋の中の空気が凍り付いたようにピリピリとしたところを,笑いながら長老が制した。

「最近はおもしろいことが立て続きに起こるわい。先日もお前さん型と似た服装の者が二人来た。赤い髪と女性らしさを兼ね備えた動きがしなやかな男、それからもう一人は青い髪と瞳をした屈強な男。きっとお前さん達と同じ所から来たんじゃないかの? 同じ匂いがしてきよるわ」

 ジャンが半歩前に出て過敏に反応した。

「赤い髪のオカマみたいなやつだな。青い髪の方は・・・・・・額に傷がなかったか?」

 目を細め,髭をなでつけながら長老は遠くの方を見た。何かを思い出すときの癖らしい。

「確かにあった。なかなか力強い男じゃったが,知り合いか? 同じ世界から来た匂いはしたが,とても気が合いそうには見えんかったが・・・・・・」
「仲良くなんて出来るはずねえ。そいつは,おれの大切な人の命を奪った男だ」

 もしかして,てジャンに向かって呟いた。手のひらが痛い。無意識のうちに拳を強く握っており,爪が皮膚に食い込んでいた。

「ああ,あの日うちに現れたやつだ。ソラの親父の命を奪い去った男。まさかここで会えるかも知れないとはな。差し違えてでもあいつだけは・・・・・・」

 きつく歯を食いしばって肩を怒らせている。ジャンとじいちゃんが追い出したあの青い髪の男。聞いたところによると,物心がつく前に父さんを殺した男だ。記憶にないが,ジャンは目の前で,自分の力不足のせいで殺されたと思っている。一矢報いたいという思いがひしひしと伝わった。
 あの時の男か,とバオウが呟いた。そうだった。あのときはバオウも窓から様子をうかがっていたのだ。振り返ればそんなに昔のことではないが,ずいぶんと時間が経っているような気がする。あのときとは違う。仲間も増えたし,自分を腕を上げたつもりだ。じいちゃんはまだ見つからないけど,今ならあの男とやり合える気がする。

「長老さん,その男達がどこに行ったかを教えてよ。そいつに用があるんだ」

 ジャンとバオウが力強くうなずいた。そんな様子を,長老は微笑みながら見つめて一つうなずいた。

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