異世界になったこの世界を取り戻す

文戸玲

時空を超えて⑥~光の向こう~



 うっ,と呻いた。身体が痛い。目を開けると,空高くに太陽がある。どうやら外に出られたようだ。でもどうやって? それにしても・・・・・・暑い。

「目覚めたか?」

 声のする方を見ると,ジャンが木の上で何やら遠くの方を眺めている。その下ではバオウが肉をさばき,何やら調理の下ごしらえのようなことをしている。

「ここはどこ?」
「さあな。でも,どこか遠いところっていうのは知っておいた方がいいかもな」
「遠くって・・・・・・,飛ばされたの?」

 アトラスがペンダントを掲げた時,光に包まれたことを思い出した。物体を移動させる力もあるのか。

「ああ,見る限り遠く遠くに飛ばされたっぽいな。場所じゃなくて,時間的にな」
「え・・・・・・?」

 言っている意味が理解できなかった。少し考えて,アトラスが言っていたことを思い出した。時の欠片について言っていたことだ。

「もしかして,パラレルワールド? うそでしょ・・・・・・」
「残念ながら本当だ。おそらく百年は過去に飛ばされているだろう」

 愕然とした。そんなことが本当にあるのか。確かに,パラレルワールドについてアトラスは説明していたけど,話半分に聞いていたしそんなものがあるとは実感もわかなかった。それに,まさか自分が飛ばされるとは・・・・・・。
 でも,みんながいてよかった,そう思った時ミュウがいないことに気が付いた。
 ミュウ! と叫んで辺りを見渡した。もう別れるのはこりごりだった。

「お前だけだよ。のんきに寝転んでたのは」

 下ごしらえをしながらバオウが言い放った。その横で,ミュウがどこからかネズミを捉えてバオウのもとへ運んでいる。

「よかった。・・・・・・,情けないけど」

 これからのことを練らないとな,と木から飛び降りてジャンは言った。「その前に腹ごしらえだ。支度はできたかバオウ」と火に食材をかけているバオウへ歩み寄る。

「もうすぐできるから,体を休めてくれ」

 頭の中ではてなが渦巻いているが,とにかく食事ができるのを待つことにした。



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