異世界になったこの世界を取り戻す

文戸玲

時空を超えて④~いらない感情~

「ちょっと,さっぱり状況がつかめていないのが自分だけみたいだ。ちゃんと説明してよ」
「何が分かっていないのかもソラははっきりしていないだろ。必ず説明するから,まずはあのペンダントを奪還するのが先だ」

 アトラスはペンダントを首元につけ,そのまま衣服の中に入れた。その色っぽい仕草にジャンはやられると思ったが,顔は引きつり肩を怒らせて戦闘モードに入っている。

「こちらの要件を聞いたわね。今は争う気などないの。要件はただ一つだけよ。そのヒューゴの死体をこちらに渡しなさい。ただそれだけ」
「これで何をする気だ」
「知っているでしょうけど,我々とヒューゴは同じプロジェクトを進めていたの。今はこうなってしまったけど,彼の身体とその頭には膨大なデータが眠っている。彼がこちらに隠していた情報も潜んでいるかもしれない」
「お前たちの好きにさせるつもりは無い」

 ジャンが声を張った。アトラスは首を左右に振ってから,深くため息をついた。

「あなたたち,これから仲良く旅に出るのでしょ? ヒューゴの弔いなんていいから,そのまま行ってらっしゃい」

 ジャンとバオウは顔を見合わせた。バオウは首を鳴らして威嚇するようにしてアトラスに顔を向ける。

「納得いかねえな。・・・・・・,どうしてもっていうなら,どこにいるのか知らねえがあの子どもたちを解放しろ。お前たちがいいように使おうとしているホルマリン漬けの子どもだ」

 アトラスとチチカカは顔を合わせ,高らかに笑い合った。

「結構なところまで踏み込んでいるのね,あなたたち。・・・・・・でもね,知っておいてちょうだい。あの子たち,幸せそうよ」

 怒りがこらえきれない。アトラスに向かって叫んだ。

「何を言っているんだ! あんな実験動物みたいな扱いをされて,なにが幸せだ! 物も言えないじゃないか!」
「あら,あの子たちは未来で楽しそうに暮らしているわよ。ねえ,チチカカ?」

 アトラスはチチカカの方に目をやる。チチカカはさも面白そうに,見下すような目つきで言った。

「ああ,幸せそうに暮らしているわよ。なにせ・・・・・・,私はあの子たちが生活している未来から来たのだから。言ったでしょ? パラレルワールドよ」

 未来? この子どもたちがサイボーグのように改造されて生活している未来があるというのか? その世界は一体どうなっているんだ。

「人間らしい暮らしをしているの?」
「ええ,しているわ。もちろん,あなたたちとは少しだけ違うけれど・・・・・・」

 チチカカは笑った。そして続けた。

「あなたが今持っているような無駄なもの。憎悪と疑問の二つの感情を持つことは無いけれどね。まずは試験的に最もいらない感情を二つ消したわ。だからいたって平和♡」

 感情を消した? それはあんたたちの都合のいいようにしただけじゃないか! 言葉よりも先に身体が反応していた。


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