異世界になったこの世界を取り戻す

文戸玲

助っ人参上②~馴染み~

 万事休す。商人一人は再起不能、もう一人のロボットは一人しか謎の重力で押さえつけることは出来るが,その間お互い身動きを取ることは出来ない。もしヒューゴに同じ能力が備わっていたとしても,四人とも身動きが取れない状況になるだけという目算だった。だが,ヒューゴは両腕をこちらに向け,一人でこの自分とジャンを押さえつけている。これで商人はフリー。いつでもこちらに手を下せる。
 このロボット商人にも感情はあるのだろうか。こちらの不安感を煽るように,ゆったりとした足取りでこちらに向かって歩いてくる。むき出しになった腕は,よく見ると皮膚のような質感ではなくつや消しの鋼鉄のような素材感になっている。あの腕で殴られたら痛いだろうなあ,と半ば意識が飛ぶまでやられることを覚悟した時,扉が大きな音を立てて開いた。重力で押さえつけられて顔を上げることが出来ないが,開いた扉から一人の足が見える。

「誰じゃ,貴様は。ずいぶん手荒い入り方をするんじゃのう。最近の若いもんは礼儀を知らんから,教えてやろうか。いや,どうせ長くない命,世間知らずなまま死んでゆけ」

 男は何も声を発しない。不思議な雰囲気だ。殺伐としたオーラは感じられず,目的も見えない。ヒューゴの口ぶりからすると,どうやら敵ではないのかも知れない。わずかな希望を抱いたとき,男のいる場所から甲高い動物の鳴き声が聞こえた。

「ミュウ!! 無事だったのか!」

 ミュウが助けを呼んでくれたのかも知れない。本当に賢い子だ。この場をなんとか切り抜けられるかも知れない。とにかく情報を与えなければ。こいつらは普通じゃない。

「気をつけてください! こいつらはサイボーグで・・・・・・」
「うっせえな。サイボーグだって何だって,おれがやられるはずがないんだよ。ったく,この前のはまぐれかよ」

 こちらの発言を遮って帰ってきた返事は,ジャンと町を出る時に聞いた力強いなじみのある声だった。



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