異世界になったこの世界を取り戻す

文戸玲

監獄にて⑨~疑問~



 ヒューゴはジャンを見下ろし,締め上げられた腕をまるでこれからキャッチボールを始める少年のようにぐるぐると回している。この人も体を改造している,そう確信した。

「痛みを感じていないの?」
「ああ,人であることをやめたのじゃ。とは言っても,もう少し締め上げあられて追ったら不具合がおきていたじゃろうな。心根の優しいやつじゃ。・・・・・・それが己の夢を阻むというがなんとも皮肉よの」

 ヒューゴの顔は間違いなくこちらに向いたいたが,その目はこちらを見ていなかった。焦点が定まらず虚空を見つめている。その姿は,敵に完勝したもの様子には到底見えないだろう。
 商人二人がそれぞれ,ジャンと自分について手をかざしているのが横目に見える。「そこの能無し二人は自分の脳みそで思考することも放棄したんだもんな。お前達の未来が楽しみだよ」と嘲笑すると,ジャンに手を向けた方がわずかに力を込めたように見えた。直後,ジャンはウッと唸って顔を地面につけた。さらに強い圧力をかけられたようだ。手は確かに触れていない。重力を操っているのだろうか。ほとんど反則じゃないか。

「情けないねえ。動けたら殺してやってもいいんだが。生き恥さらすよりも良いだろ?」

 動けたら・・・・・・,ジャンのことを言っているのだろうか。とにかく,打開できそうにもない状況をなんとかせねばと頭を働かせてはみたもののこれといった解決策は浮かばない。ここまでか。・・・・・・いや,諦めたらだめだ。考えろ,考えろ,考えろ! 少なくとも,ヒューゴの様子を見るからには話し合いの余地はあるはずだ。
 何を言おうか。そう考える間もなく気付けば単純な疑問を発していた。


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