異世界になったこの世界を取り戻す

文戸玲

人が支配される街⑯~見えない敵~

「情けないねえ」

 声のした方向を見るが,誰もいない。いつの間にか,ジャンを殴り飛ばしたハンマーも消えている。
 ジャンは10メートルほど弾き飛ばされたところで右肩を押さえながらうずくまっている。

「ジャン! 待ってて! すぐ行く!」
「来るな!」

 うずくまったまま顔を上げてジャンが叫んだ。

「やれることをやれ! 分かっているな! 最優先にやることは,負けないことだ! 生きていたら勝ちだ。とにかく相手から目を離すな。そして・・・・・・隙を見て逃げろ!」
「そんなこと言ったって・・・・・・」

 そんなこと言ったって,置いていけるものか。また同じ失敗だと言われるかも知れないが,そんなことはない。ジャンを助けて,自分も生き残る。
 落ち着いて状況を確認しよう。敵はおそらく二体。うち一人は戦闘不能の状態だが,その場から遠距離攻撃を仕掛ける可能性も考慮しなければならない。いろいろなことを想定する中で,二人で勝ちきるならジャンと離ればなれの状態では無理だ。
 とっさの判断でジャン倒れているところへ駆けつけた。体に槍を突き刺されて身動きの取れないロボットの腕がこちらに伸びた。一瞬光ったかと思うと,光線が飛び出た。

「危ないだろ! このウニ野郎!」

 警戒していたため避けることは困難ではなかったが,光線の当たったテーブルは吹き飛んでいった。当たったらただじゃすまない。
 軽快なジャンプの先にはジャンがいる。綺麗な身のこなしをする自分に酔っていた部分もあった。目の前で口を開いてジャンがつばを飛ばしながら何かを必死で伝えようとしているが,はっきりと聞き取れる前に頭に衝撃が走った。
 ハンマーが視界の隅にある。あり得ないと思って考えないようにしていた恐ろしい予想が的中していた。この中に,姿を消せるロボットがいる。

「異世界になったこの世界を取り戻す」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「SF」の人気作品

コメント

コメントを書く