異世界になったこの世界を取り戻す

文戸玲

人が支配される街⑨~光速ロボット~

 ビールをのどの音を鳴らせて飲み,ローストビーフにがっついた。うまい,と思わず声が漏れた。テーブルの下から料理が出てきたが,その下はどうなっていて,どこにキッチンがあるのだろう。

「そういえば,ここでは料理もロボットが作っているの?」

 同じ席で一緒に飲み直すことにした二人の商人に尋ねた。

「どちらとも言えねえな。あれだけ精巧に作られたロボットでも,さすがに味覚はない。だから,始めはキッチンでシェフが作って,それをロボットがウェイターとして運んでいたんだ。ところが,ロボットは味は分からなくても具材の分量や盛り付けは覚えちまう。それでロボットが徐々にキッチン周りに立ちだして,しまいにはロボットが間隔で作ったものを人間が味見させられるようになっちまったらしい」

 ジャンが怪しげな顔で聞き入って,疑問を口にした。

「よく知っているな。でも,ここにキッチンがあるようには見えないが,それも噂の一つか?」

 商人の一人はかぶりを振った。さっきまでお酒を飲んで気持ちよくなった表情は影を潜め,どこか辛そうでもある。

「噂だとよかったんだがな。港町にはここのキッチンをもともと仕切っていたシェフや見習いが何人かいる。嫌気がさして逃げ出したらしい。実際,人のような扱いはしてもらえず休憩もなしに働きっぱなしだったらしい。そりゃあ,ロボットは疲れ知らずだからな。だからって,その間隔を押しつけられたらたまらんだろ」

 ジャンが唸るようにして低い声を出し,ゆがんだ顔で何かを考えている。この町は本当にロボットが支配されているのだろうか。そんな気がしてきた。

「ところで,ロボットには感情はあるのかな? 例えば,楽をしたいとか,世界を支配したいとか・・・・・・。この町のトップを見たことがないって言っていたけど,ロボットに感情があるならばもしかしたらラムを裏で仕切っているのもロボットという説も考えられる。だとしたら・・・・・・,本当に手強いんじゃないかな」

 頭の中をフル回転させて考える。人間がロボットをうまく操り,侵略を企てているとしたら交渉やするべき事が考えやすい。もし,ロボットが感情を持ってこれから良くない展望を見据えているのだとしたら・・・・・・。
突然、店内の入り口付近の天井が大きな音を立てて開き,何かが降りてきた。体全体に金属をまとったような姿のそれは,間違いなくロボットだった。ただ,他のロボットとは明らかに動きが違う。つやのあるシルバーの色をした表面からは想像できないほど柔軟で精密な動きをして,ゆっくりとこちらへ向かって歩いてきた。
 
「あまり余計なことに首を突っ込むなよ。だから後悔することになるんだ。ベッドであほ面さらして休み,旅人ごっこを楽しんでいたら良かったのにな」

商人はおぼつかない足取りで反対側の壁へと後ずさりした。ジャンとともに武器を手に取る。

「ソラ,準備は良いか。お話をしに来たって言う雰囲気じゃねえぞ。あのツルピカ野郎が親玉か知らねえが,主力であることは間違いない。ここでたたくぞ!」

 ゆっくりと歩いていたかに見えたロボットは,ノーモーションで加速して迫ってきた。

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