異世界になったこの世界を取り戻す

文戸玲

人が支配される街⑦~うわさ話~

「ご注文の品は?」
「えっと,その・・・・・・,おすすめをください」
「おすすめは全てです。では,全てお持ちしますね」
「いや,じゃあ,ローストチキンをお願いしようかな」
「しようかな,では困るのです。はっきりしない人ですね。これだから人間というものは。」
 
 ジャンは分かりやすく眉間にしわを寄せ,貧乏ゆすりをしながら声を張った。

「ローストチキン! それからビールを二つ!」

 かしこまりました,と言ってロボットは机の下に下がっていった。ジャンが机の下にある筒の形をした柱を小突いている。

「なんだよ,偉そうに。人間様に使われておきながら,『これだから人間は』だってさ。ばかじゃねえのか」

 ジャンが怒りで髪の毛を逆立てていると,隣のおじさん二人がビールを片手に揺らしながら笑った。

「いやあ,おもしれえよなこの町は。まあ,確かにロボットは人間に使われるために生み出されたものなんだけど,このラムではロボットが国の主をしているんじゃないかって噂だ。そうなると,おれたち人間がロボットに使われる比がくるかもしれないな。まあここ百年ぐらいこの国のトップの顔を拝んだ人間がいないって言うんだから,確かではないが謎に満ちあふれていることは間違いないな」

景気もいいからなあ,ともう一人のおじさんがグラスを置いて続ける。

「おかげでおれたちの商売も調子がいい。きっと,あの噂は本当だぜ。この国は戦争をおっぱじめる。ここ最近のエネルギー資源や武器の買い占めが半端じゃない。近くの町を少しずつ乗っ取って国を拡大していくってなら,確かに人間がロボットに支配されるようになるだろうな。普通の町じゃ,このロボット達に太刀打ちできんだろう」
「この近くに,何か町があるのか?」

 慌ててジャンが問い詰める。月が落ちてくると心配している男のようだ。何をそんなに気にしているのか,と不思議に思っていると,おじさんが驚くべきこと言った。

「ああ,あまり知られていないけどな,ここを南に下ったところに大きな森があるんだ。その向こうには,へんぴな町がある。そこを侵略するべく準備をしているのではって言われているな」

 嘘だろ,と声を張ってジャンはテーブルをたたきつけた。勢いよく立ち上がると,おじさんに掴みかかる。襟元を持って揺さぶられたおじさんは呼吸が苦しそうだ。一緒に酒を飲んでいたもう一人の男も状況が掴めずとにかくジャンを押さえるのに必死だ。慌ててジャンとおじさんを引き離した。

「おいおい,どうしたって言うんだ」
「詳しく説明しろ!」

 落ち着けよ,とジャンをなだめる。ゆっくりと呼吸をして息を整える。目つきが冷静になってきた。おじさん達も獣が暴れ出したような恐怖感から解放されたみたいで,胸をなで下ろしている。

「すまない,あんたたちは悪くないのに,興奮してしまった。・・・・・・その町は,きっとおれたちが生まれ育った場所だ。知っていることを教えて欲しい」

 二人は,そうだったのか,と納得した様子でうなずき,一緒のテーブルに座るよう促した。
 そして,ここ数日間のこの町の動きを話してくれた。

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