異世界になったこの世界を取り戻す

文戸玲

人が支配される街②~流浪の旅人~

 手を振りながら大きな声で呼びかけると,荷車の手綱を握っていたおじさんがこちらに気付いた。

「すみません。この近くに町ってありますか? 泊まれるところを探しているんですけど,道に迷ってしまって・・・・・・。」
「ああ,この道をしばらく行くと,機械工で栄えたラマという町があるよ。最近はどこも有事に備えて軍事力向上に躍起になっているからね。その主要値はお金が動く。ただ,あそこは特に急激に進歩してきたな。人が支配されるんじゃないかって噂だ。ところで,お前さんたちは歩いて行くのかい? しばらくって行っても,歩いたらずいぶんかかる。スペースに溶融があるから,荷台で良ければ乗っていくかい?」
「いいんですか? それは助かります」

人が支配される? どういうことかよく分からなかったが,ジャンと頭を下げて馬車に乗せてもらうことにした。荷物を寄せて,人が二人座れるスペースを確保してもらった荷台に乗ると,馬車は出発した。
 がたがたと揺れてお尻と腰を痛めそうだったが,それでも数日歩き続けて目的地へ行くよりは何倍もましだ。

「ラマ・・・・・・。山を一つ越えた始めの町なのに,聞いたこともないや。かなり発展してるって言っていたけど,実際堂なんだろうね?」

 ジャンに問いかけると,返事がない。耳を澄ませると,車輪に合わせて揺れる荷物の音との合間に静かな鼻息が聞こえてくる。まさか,と思って顔をのぞき込むと,気持ちよさそうに眠っていた。疲れたにしてもよく眠れるよ,と感心に近い感情が沸いてきたが,あの気持ちよさそうな顔を見るとこちらまでほっとする。
 森での戦いを思い返しながら,今度は誰も傷つけず,大切なものを守りたい。そのためには,もっと強くならないと。そんなことを考えながらだんだん小さくなっていく森を見つめていると,まぶたが重くなってきた。


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