異世界になったこの世界を取り戻す

文戸玲

初めての冒険㉑~アトラス教団~

「アトラス・・・・・・様? もしかして,あのアトラス教団のアトラス様ですか?」
「ええ,ご存知でしたか。私がその教主をしております。」
「ご存知も何も・・・・・・,この国を牛耳っている・・・・・・,あぁ,いや,この国の恵まれぬ人たちを幸せに導く天女が率いる教団。そのトップの天女はまるでこの世の物とは思えぬほどのものだと聞いておりましたが,いや,確かにそうだ。今僕は夢を見ているかのようだ。だって,この世にこんなに美しい人がいるとは思えない」

 しどろもどろになりながらも,ジャンは確かにアトラス様に惚れている。確かに綺麗な人だ。ジャンが自分を保つのに必死な様子がひしひしと伝わってくる。ジャンは自分のほっぺたを軽くはたいて自分が確かにこの世界に存在していることを確認し,ひとつ呼吸をしてから言った。

「その・・・・・・,こんな薄汚れたところへどうして? 連絡があったと言っていましたが、誰から?」
「私の所にはありとあらゆる連絡が入ります。先ほど,この森でひどく傷ついた人がいるという報告が入りました。その肩を救おうとしたのですが,ここへたどり着いたときにはもう命がありませんでした。なんとも情けないものです。・・・・・・ただ,この赤い髪をした男はまだ救うことが出来ます。この男と闘っていたように思いますが,事情を聞かせてもらえますか?」

 そう言ってアトラス様はチチカカを膝に抱え,治療を始めた。見る見るうちに顔の血色が良くなる。ジャンはあわあわと口元に手を当ててその様子を見ている。始めは,倒した相手が回復していることに複雑な気持ちを示しているのかと思ったが,そうではないことにすぐ気が付いた。次第に怒りの表情になったその様子は,膝枕をされているチチカカへの妬みだとすぐに分かった。


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