異世界になったこの世界を取り戻す

文戸玲

初めての冒険⑰~何かを守るのに,理由はいるのかい~

 顔を上げるのが苦しい。致命傷を負ったわけではないが,やはり地面に落ちた時にたたきつけれられた形になったのだろう。首がむち打ちになった後のように痛む。 
 でも,そんな痛みはどうでも良かった。

「ジャン・・・・・・。どうして・・・・・・。」

 腕に刺さった槍を抜いて,腕を布で縛りながらジャンはこちらを向いた。その表情は血の気が失せているようで,初めは血を流しすぎたせいだと思った。

「ソラ・・・・・・,なんで槍を受けた?」

 痛みに耐える顔ではなかった。ジャンにとってあの程度の攻撃をまともに受けたところで何ともなかったのだ。腕を見ると,回復詠唱を同時に行っていたらしく傷口からはすでに血が止まっており,2,3日で治りそうに思えた。ただ,ジャンの顔は悲しみに満ちていた。

「お前は,自分の命を捨ててでもねずみを守ろうとした。なんでだ?」

 ジャンが問いかけている意味が分からなかった。何かを守るのに理由がいるのか? そんな風には思えなかった。何より,ミュウのことをねずみというその冷たさに触れたようで体の奥が反射的に火照るように感じた。

「なんでかって? ジャンは大切な誰かを守るときに自分のことを最優先にするのかよ。ジャンの方こそ,真っ先に自分の命を捨てるんじゃないのかよ」

 ジャックベアにやられそうになった時のことを思い出した。あの時,演技ではあったのかもしれないけれど,ジャンは敵から守るように自分を守ってくれた。あの背中には,ジャンの役目を超えた深い愛情のようなものを感じた。きっとジャンは,誰かのために真っ先に自分の命を投げ出すだろう。
 ジャンは自分と同じ感覚を持っている。だから自分が言いたいことも伝わると思っていた。しかし,予想外の反応を見せた。


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