異世界になったこの世界を取り戻す

文戸玲

初めての冒険⑮~ありがとう,ごめん~

 なりふり構わずに自分の体を投げ出した。今,バオウの時のように自分の中にある力が解放されている。このスピードなら槍をたたき折ることもできたかもしない。でも,それではミュウが地面にたたきつけられてしまう可能性が高かった。なんとか守り切らなければ。一番可能性が高いのは,自分が盾になることだった。必死だった。考えるよりも先に体が動いた。今の自分なら,致命傷は負っても死ぬことはないかもしれない。
ミュウが手の届くところにいる。急にまた世界がスロー再生される。さっきと違うのは,自分の動きまでもがスローで再現されていることだ。あ,死ぬんだな。そう理解するのに時間はかからなかった。走馬灯というやつだ。氏は突然にやってくるとはよく言うけど,本当に唐突だった。ミュウが無事ならそれでいい。あとは,ジャンがなんとかしてくれるはずだ。ぼろきれを来たような男二人と,致命傷を負ったチチカカを倒すのにそう時間はかからないだろう。ごめん。じいちゃん。会いに行けなかった。ごめんかあちゃん。かえってこれなくて。
不意に頭の中で家族の顔が浮かんだ。申し訳なさはあったが,怖くはなかった。
みんな,ありがとう。ごめん。


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