異世界になったこの世界を取り戻す

文戸玲

初めての冒険⑬~失態~

 いったい何が起こったのだろう。
 ふふ,そういってチチカカはダガーを抜いた。こちらに切っ先を向けた。先端が光っている。不自然なほどゆっくりと押し込んでくる。刺さった。そう思った。しかし,次の瞬間にはチチカカが下腹部を抑えてうずくまっていた。

「なんだ・・・・・・。どういうことだ」

 どういうことだ。これが走馬灯っていうやつかと思うくらい世界がのんびりとしていた。

「見えなかった。どこにそんな力を隠し持っていた? こっちが親玉だったか」

かろうじてあごを挙げて上目遣いのような姿勢でチチカカは声を振り絞る。見えなかった,確かにそういった。この空間の時間の流れが遅くなったのではない。自分の行動が早くなったのだ。

「そっちも終わったか。ソラ,やるじゃないか」

 ジャンが袖で額を拭いながらこちらへやってきた。チチカカの顔がみるみる血の気をひいていく。

「貴様,なんてことを・・・・・・!」

視線の先を見ると,あの大きな獣が脳天から顎にかけて剣が突き刺さり,そのまま地面にくし刺しにされてる。戦いに集中していたせいか,音の一つも聞こえなかった。

「こっちも心配だったからな。ちゃっちゃとやらせてもらった。いらぬ心配だったけど,あの化け物には無駄な苦しみは与えなかった。断末魔の叫びも聞かせられなかったけどな」
「やってくれたな・・・・・・。まあいい,アトラス様に連れ戻してもらうだけだ。だが,このまま帰れやしないな」

そう言うとチチカカは手のひらをこちらに向けた。ハッと声を放つと同時に衝撃波がやってきた。しまった,吹き飛ばされると同時に首元からミュウが飛び出た。
 助けようと思ったころには,もうミュウはチチカカの手元にいた。 

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