異世界になったこの世界を取り戻す

文戸玲

偽りのほこら⑤~先手必勝~

 こんな決着のつき方ってありなのか。意識が戻った時,そう思った。
 剣を抜いてバオウに対峙したとき,先手必勝とばかりに切りかかりに行った。人よりの見込みも遅く,勉強するにも練習に取り掛かるにしても誰より早く始めた。どんなことでも計画的に,そして早くから始めているとそれなりに喰いついてくことが出来た。その生き方は戦いにも生きてきた。どんな時でも,相手に考えるスキを与えない。自分の闘い方や剣の使い方,呼吸を読まれる前に仕留める。それでこれまでうまくいってきた。
 今までやってきた自分のやり方を信じた。いや,自分にはこれしかできない。バオウは力もあるが頭もかなり切れる。時間を与えたらだめだ。速さには時間がある。短期決戦で,なんならこの一太刀で決めてやる。そんな覚悟で後ろ脚に乗せた体重を一気に前に送った。そして,一気に剣を振りぬいた。・・・・・・直後,剣が宙を舞った。そして数秒後、その剣が地面に突き刺さった。
 刺さった剣に目をやる。その剣がバオウのものだったらどんなに良かっただろう。しかし,現実は甘くない。少年漫画の主人公のように,ある日突然,たった一つのわずかな瞬間に爆発的に力が解放されるなんてことはあり得ない。ジャンの期待に応えたい,自分で自分を裏切りたくない。そう思った時,確かに力が沸いた。それは,奥深くに眠った源泉からこんこんと湧き出てくるものを発見したように気力を漲らせ,鼓舞した。でも,それが自分の力となってすぐに表れることなんてありえないのだ。きっと,少し勘違いしたのだろう。
 諦めずに,やれることはやったのだ。その事に関しては悔いはない。顔を上げると,バオウが目の前にいた。

「あっけなかったな。結局そんなものさ。・・・・・・最後に一つ聞きたい。昨日は何があった? 昨日,お前の家で騒ぎがあっただろう」

昨日? 青い髪の男が攻めてきた時か。なんでそのことについて知っているんだ。そういえば,窓から何か視線を感じた気がする。あれはバオウの気配だったのか。
 何だか知られてはいけないようなことの気がする。秘密にしておきたいという気持ちが半分,直感的に言ってはならないという気持ちも沸いていた。根拠はない。

「何のことだ? 特に何もなかったけど」

そう言うと,はんにゃの形相でバオウは問い詰めてきた。

「嘘をつくな! そんなつまらんごまかしが通用すると思ったか。おれはジャンさんが旅から帰ってきたと聞いて,一人になるときに声をかけようとお前の家に様子を伺いに来ていた。そしたらなんだ,家の中から異様な物音がするじゃないか。覗いてみていると,化け物みたいなやつと老いぼれのじじいが激しく戦っているじゃないか。あれは何だったんだ」

バオウの問いかけに何も答えず,黙ってその目と対峙していた。答える気がないと悟ると,その目には体の芯から凍りつくような何かが宿ってこちらに敵意を向けてきた。

「分かった。いいだろう。別にお前に聞かなくてもやり方は何でもある。おれはただ強いやつと闘いたいだけなんだ。ジャンさんからも聞けるし,それも叶わないならお前の家に行けばいいだけだ。昔は名の通るハンターだったらしいけど,今はどうかな。それに,お前の母ちゃん,若いし良い体してるよな~。いろんな意味で楽しめそうだよ」

気味の悪い顔をしてバオウは微笑んだ。こいつをここでやらないと大変なことになる。そう直感した。何も持っていない右手に力を込めた。その右の手のひらには,なぜか何かをつかんだ感触があった。
 

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