異世界になったこの世界を取り戻す

文戸玲

真実を求めて⑤~行こう,ジャン!~

 ジャンの方を振り向くと,誇らしそうな顔をしてこちらを見ている。まるで,この日が来ることを知っていたみたいだ。もしかしたら母さんのことを説得してくれていたのかも知れない。訓練後に言ったことはそういうことだったのか。
 大きく息を吸った。そして声に出した。

「行こう,ジャン! この世界を取り戻しに! 二人でならできる! これからもっともっと強くなるから! 旅の中でいろいろと経験しながらさ! 今はじいちゃんはいないけど,これから会える気がする。そしたら聞くんだ。どうしてこんなことになったのか。そんでさ,じいちゃんと一緒に旅をするのも面白いと思うんだ。これから楽しいことがいっぱいだよ。そして,必ずこの世界も救って見せる!!」

部屋の中が心となった。あれ,と思った。この旅立ちは受け入れられていない? それとも,何か突拍子もないことを言ってしまったのだろうか。とまどいながらあれこれ考えていると,母さんとジャンが同時に吹き出した。「何笑ってるんだよ」とふてくされて言うと,

「すまんすまん。お前を見ているとつい笑ってしまってさ。まあ,一人で行ってくるなんて言わなくて安心したぜ。おれたちはいつでも一緒だ。どんなことがあってもおれが守ってやるから,安心しろ」

と緩ませていた頬を引き締めてジャンは言った。

「もう守ってもらうだけの存在じゃないんだって! いつまでも子ども扱いするなよ,まったく」
「そうじゃない。おれは,お前にとってもおれにとっても,母さんにとっても大切な人を守れなかった。この世界に生まれてきた意味がない。過去と決別してその穴埋めをしたいんだ。そして,みんなに幸せになってほしい。それがおれの願いだ」

神妙な顔をしてジャンが言うのを,「あんたら二人とも頭が立派な方じゃないんだから,しっぽりした雰囲気で神妙にしてるんじゃないの」と明るくなだめた。「とにかく,気を付けていってらっしゃい」という母に二人で向き合った。


「母ちゃん,本当にこんなにたくさんありがと! 行ってくる! ジャンがいるからなんだって怖くない。今からも強くなるし,おれとじゃんと母ちゃんとじいちゃんが住むこの世界を必ず守るから」
「お世話になりました。必ず元気で戻ってきます。ソラは絶対守り抜くから,安心しててくれ」

二人で短く挨拶を済ませると,すぐに出発をした。空を見上げると,ゆっくりと雲が流れている。空にはのんびりと旋回するとんびの姿がカラッとした空気とこの町の,いや,この世界の平和をいつまでも眺めてくれている気がした。
 ジャンは少し遅れて玄関から出てきた。

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