異世界になったこの世界を取り戻す

文戸玲

ある晴れた日のこと③~ジャンの苦い思い出~

「おれには後悔していることがあるんだ」

窓から見える常緑樹に止まった鳥を眺めながらジャンは語り始めた。その目は湿り気を帯びており,まばたきすると今にも滴が落ちてきそうなほどだった。聞いた話の内容はこうだった。

 ある晴れた日のこと。お父さんが死んで10年になろうとしているから,5歳ぐらいの頃だ。さらに5歳年上のジャンは魔法学校ではかなり優秀な方として名が通っていて,村一番の実力者として自慢の存在であり,みんなから尊敬の目を集めていた。そのジャンに稽古をつけたのがお父さんで,孤児院で育ったジャンには実の父こそいなかったものの,本物の父のようにお父さんを慕っていた。
 その日も稽古を一緒につけてもらっていた。もちろんその記憶がないのでやっていたらしいということだが。その日は,お父さんの命日になるその日は夏の盛りで,庭先の木や近くの木にもいたるところでセミが鳴いていた。休みもとらずに稽古を続ける3人にお茶を出そうとお盆を持って出てきた。

「きゃっっ!!」

叫び声をする方を見ると,割れたグラスと,首元に剣を突き付けられたお母さんの姿があった。


「誰だ!!!」

お父さんとジャンは剣を握って相手と対峙しようとすると,青い髪の毛を振るうようにして言った。

「動くんじゃない。 愛する妻の血が見たくなかったらな。武器を置いて手を挙げろ。ここにソラというガキがいるはずだそいつを差し出せば全員生きて返してやろう。そこの銀髪お前か?」
「ソラ? あの小さな子か? いたけど,とう・・・・・・変な爺さんが連れて行ったぞ!! 分かったらその人を離せ!!」
「生意気なガキだな・・・・・・。よし,いないのか。とんだ無駄足だ。せめておれがここに来た足跡だけでも残そうか。そうするとやつがのこのことやって来るかもしれないな。こいつは名案だ」

そういうとお母さんの喉元に向けた剣に力を入れた。その瞬間,光が走った。

「なんだ!」

青髪の男とお母さんの間に父の姿があった。

「貴様も“時の瞬歩”が使えるのか。貴様“も”な」

そう言うと,少し前に見たのと同じ光が当たりを包んだ。

「え?」

目が慣れたころ,今度はジャンの後ろに青髪の男が立っており剣を向けて人質にした。

「“時の瞬歩”は何度も使えない。時間が歪むからな。どうだ? ガキの命と貴様の命,どちらか差し出せ」

「ジャン,お前が実力を発揮すればこの場は切り抜けられる。自分を信じろ。お前ならやれる」そんな風に言った気もするが,ジャンの耳には何も入っていない。しばらくした後ジャンはそっと目を開けた。そこにはうつぶせに倒れたお父さんの姿があった。「おい!!!」と言って駆け寄ろうとしたところを,後ろから青髪の男に蹴り飛ばされた。

「手遅れだよ銀髪。おれの名前をよく覚えておけ。ソラというガキかその連れ去ったとかいうじじいが戻ってきたら,『ドルジがまた会いに来る』と伝えろ。」

そう言って立ち去ろうとしたが,数歩歩いてまた立ち止まりこちらを振り向いていった。

「そうだ,銀髪の坊ちゃん。あの男,なかなかの手練れだった。・・・・・・お前は何のために鍛えているんだ? もしお前が目を開けて剣を握り戦っていたら,そこに倒れている男は救えただろうな。」

白い歯をちらつかせてそう言い放つと,姿を消した。ようやく冷静になり状況が分かってくると,
ジャンは声が枯れるまで泣き続けた。




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