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モブ令嬢の旦那様は主人公のライバルにもなれない当て馬だった件

獅東 諒

第五章 モブ令嬢と褒賞授与式典(四)

 陛下の御前より褒賞受領者の列へと戻りましたら、同じ列に並ぶアルメリアやマリーズ、さらにリュートさんにレオパルド様も、沈痛な面持ちで私を迎えてくださいました。
 皆さんのその表情は、明らかに旦那様の決意に対する感動と、彼がこの先背負うことになる悪名への憐憫とがない交ぜになったものであると理解できました。
 ただ一人、隣に並ぶメアリーだけが感情の読めない薄い表情のままでしたが、彼女は「奥様……ご苦労様でした」と、小さく声を掛けてくれました。

 その後、トライン辺境伯領と王都での戦いにおける褒賞の授与は、何の揉め事も無く進みました。

「……では最後に、この度トライン辺境伯領に口を開けたクルークの試練。……その試練を見事に乗り越え、オルトラント王国にクルーク様よりの財宝をもたらした功績を讃えて、達成者たちに褒賞を授与するものである。先に褒賞の授与を終えたエヴィデンシア夫人以外の達成者たちは陛下の御前に!」

 尚書官の呼び出しに、私を除いたクルークの試練達成者は陛下の御前へと進み出ます。
 クルークの試練達成者たちが陛下の前に並びますと、陛下は達成者の顔を確認するように、一度右から左へと顔を動かしました。
 陛下から見て右から、レオパルド様、リュートさん、アルメリア、マリーズ、メアリーの順に並んでおります。

「……前回のクルークの試練より六年という、前例のない短期間に、我が国はクルーク様より二度の試練を賜った。それは……今回のように国土が攻められるという事態を、かの竜王様は察しておられたのやも知れぬ。幸いにも、我が前に並ぶこの若き勇者たちの力によって、試練は見事乗り越えられた。しかも彼らは、クルーク様より賜った財を国庫へと寄贈したのだ。我はその尊き心根に対して褒賞を与えるものである」

 アンドリウス様は謁見の間を広く見回しながら、そのように仰りました。
 クルークの試練が短い期間で課された理由の考察を口にしておられるとき、一瞬だけ私と目線が合いました。
 陛下はそう口にすることで、僅かでも私と旦那様に事実の推測が向かわないようにしてくださったのでしょう。あの事実を知っておられる方は多くはございませんし、知っておられる方も責任ある立場の方が殆どですから、外に漏らすような事は無いでしょう。

「……まず、クルークの試練達成者には前回の試練達成者と同じく、千シガル一億円ほどか、下賜可能な物品の中から千シガル相当の物を下賜する。さらに……白竜の愛し子リュート・ブランシュには男爵位を授与する。そしてカレント騎士爵の娘アルメリア・パーシー・カレント――その方には名誉男爵位を授与する。またこの名誉男爵位は配偶者、または親族に継承可能の男爵位である」

 その陛下の宣言に、僅かに会場がどよめきます。
 リュートさんの男爵位授与は、皆さんの想像の内であったでしょう。しかしアルメリアに与えられた名誉男爵位は破格のものだったからです。
 これは、陛下のアルメリアに対する評価の高さであるとも受け取れます。先ほど陛下が、私に旦那様との婚姻解消を口にしたときに近い視線がアルメリアに向かいました。
 この式典に参加している人の中には、継承可能な爵位を持っていない方がそれなりの数おられるのでしょう。

「……レオパルド・モーティス・デュランド。その方はデュランド公爵家の長子であるから爵位の授与というわけには行かぬ。……学園の卒業後、望みの騎士団への入団を認めよう。さらに、先ほどの千シガルと千シガル相当の物品であるが、お主にはその双方の権利を認める」

 その陛下の言葉に、レオパルド様は握った左手を真っ直ぐに腰の横に付けて、握り込んだ右の拳を胸の中心にドンッと当てて僅かに視線を下げる敬礼をいたしました。
 アンドリウス様はそれを受けて、ひとつゆっくりと頷きます。そうして、次にメアリーに視線を向けました。

「エヴィデンシア伯爵家の侍女、メルアリーン・アンドルク。お主に与える褒賞は……その方の要望どおり、金品の授与のみとする……」

 メアリーは感情の読めない薄い表情のまま、ドレスの腿のあたりを軽く摘んで小さく膝を折って礼をいたしました。

「最後に……七竜教の聖女、マリーズ・シェグラット・リンデル殿、そなたはマーリンエルト公国の人間ではあるが、公王殿より了承頂いた故、我が国の名誉男爵位を贈る。またこの爵位は一代限りのものとする。さらに――過去、我が国に生まれた聖女、シャーロットのかばね、ユリシーズを贈る……我が国におられる間、その姓を名乗る時、我が国の男爵格として遇する」

 アンドリウス様はそう仰いますと、意味深げに右の側廊前に設けられた公王夫妻の席へと目を向けました。
 陛下の視線に促されるように視線をそちらに向けますと、いつの間にかマティウス様が席より立ち上がっておりました。
 マティウス様は陛下の視線を受け取るように口を開きます。

「聖女マリーズ。オルトラント王国で成した偉業ではあるが、お主は我が国の子爵家の娘でもある。オルトラントは友好国であるゆえ、我もまたその偉業を讃え、公国よりも名誉男爵位を授ける。さらにローゼントの姓を贈ろう」

 なんということでしょうか。
 マリーズは、時を同じくして、二つの国で名誉男爵位と姓を賜るという、これまで耳にしたことの無い、歴史的な偉業を成し遂げてしまいました。
 謁見の間にいる方々もそのことを理解したのでしょう、マリーズを讃える声が方々から響きました。
 おそらくは……マリーズをオルトラントに取り込まれないためのマティウス様の一手なのでしょうが、マリーズの未来の選択肢が増えることは、私も、友として嬉しく思います。

 思わぬマティウス様の言葉により巻き起こったざわめきが収まり、マリーズを始め、クルークの試練達成者が褒賞受領者の列に戻りますと、いよいよ褒賞授与式典も終了か――という雰囲気が謁見の間に広がります。
 ですが陛下は王座へと戻る事なく、その場で謁見の間を、左右の側廊、そこに居並ぶ使節団に視線を送ります。
 陛下は、その視線を新政トーゴ王国の使節に留めて口を開きました。

「さて、この度の新政トーゴ王国の侵攻において、王都は飛竜部隊の急襲を受けたわけだが……使節団の方々が目にしたとおり、王都オーラスの被害は最小に止めることが叶った。それもひとえに、褒賞を授けた我が国の精鋭たちの活躍があってのことであった。……ところで、この度の侵攻は、あの悪名高き簒奪教団にトーゴ国王が操られて起こされたものだという話であったが、それはまことのことかな?」

 アンドリウス様より強い視線を向けられて、トーゴ王国の使節、騎士服姿の男性が居住まいを正しました。

「……まことに恥ずかしいことではありますが。奴らは長い年月を掛けて我が国に浸透し、気付いたときには国の要職を奴らの息の掛った者たちが占めてしまっていたのです……。操られていたとはいえ前王は、恐れ多くも赤竜王グラニド様を弑そうと成され、かの竜王様の怒りを買い……我が国の王都は半壊の憂き目に遭いました」

 苦しげに言葉を吐き出した男性に向かって、陛下はさらに眼光を強めて口を開きます。

「それについては、竜王様たちの血族をしゅで縛るなどと、愚かしい真似をした報いでもあろう。……して、元凶である簒奪教団の根、確かに取り除いたのであろうな?」

「それはいま我が国の全力を以て当たっております。事前に特使を遣わせて連絡いたしましたとおり、簒奪教団より送り込まれた妃ハーディの暗躍によって、第一王妃ブラガ様は暗殺されてしまいましたが、その子、第一王子フォスター様を新たな王として盛り立てて行くこととなりました」

 陛下の強い眼光を、それでも何とか逸らすことなく受け止めて、男性は言い切りました。

「ふむ。フォスター王子は暗殺より逃れ、身を隠していたのだったな」

「はい。グラニド様による粛正より逃れたトーゴの王族は、王都におられなかったフォスター様だけでした」

「なるほど……」

 アンドリウス様はその言葉を耳にすると、謁見の間に並ぶ私たちへと視線を戻します。

「……皆は、あの戦いにおいて功を成したが、国土を侵された恨みはあろう。だが、新政トーゴ王国の我が国への侵攻は……かような次第で行われ、そしてかの国はその報いを受けることとなった。……我にも国を侵された強い怒りがある。だが――だからこそ、国を胡乱うろんな寄生虫に侵され、王都半壊の憂き目を見た彼らに対して、これ以上の責めを負わせる気にはなれぬ。我は、新たに王に即位したトーゴ王の心胆を確かめるためにも、彼らとの交渉を始める所存だ。……この我の決断に異がある者はいまこの場で意見せよ!」

 陛下の言葉が、静まりかえった謁見の間に響き渡りました。
 ……誰も、異を唱える者は現れませんでした。
 この場に居る皆、怒りは心の内に残っているでしょう。ですが、同時に皆、王都を攻められ、破壊される痛みを知っているのです。 
 反対の意見を口にする者が現れないのを確認して、陛下は満足げに、小さくゆっくりと肯きました。

「では最後に、各国の使節団を迎えたこの場を借りて紹介したい者がいる。ライオス……こちらへ」

 アンドリウス様は、台座の背後で控えていたライオス様を招きます。
 ライオス様は陛下の前へと進み出て、なんとも病弱そうに見える面差しをこの場に居る皆に晒しました。

「この者は第二王子ライオスである。生来病弱であった故、これまで公式の場に身を晒したことは無いが、近年は体調も回復して来た。これより公の場に姿を見せることが多くなる。……皆、ライオスのことよろしく頼む」

 そういう陛下の言葉を受けて、ライオス様も口を開きます。

「オルトラント王国第二王子、ライオスです。父上のお言葉どおり、近年は体調が公務を担える程に回復してまいりました。王子という立場でありながら、長年国の為に働くことができず心苦しい日々でしたが、これよりよろしくお願いする」

 私は、旦那様がおられないこの時にライオス様が何かを成されるのではないかと、一瞬身を固くしてしまいました。ですが、彼はそのように言葉を述べただけでした。
 私は密かに胸をなで下ろします。

「ではこれにて褒賞授与式典は終了とする」

 アンドリウス様はそう仰いますと台座より下りて、労うようにライオス様の肩に手を掛けました。
 その様子を目にして、儀典官が口を開きます。

「このあとは場を変えて懇親の宴をもよおしますので、皆様移動をお願いいたします」

 そう儀典官に促された私たちは、謁見の間より控えの間へと移動したのでした。

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