嫁ぎ先の旦那様に溺愛されています。
一つ屋根の下での事情2(7)
翌日は、ちょうど休日と言う事もあり私は高槻さんに付きそうような形で駅ビルの中を歩いていた。
「あの、高つき――、総司さん」
「何だ?」
「今日、購入している物って化粧品とか小物なんですけど……」
そう、付き添うのはいいのだけど、彼は自分の物を買わずに私が使う物を選んで購入している。
「当たり前だろ? ある程度は、お洒落をしてもらわなければ俺としても夫と言う事になっているのだから、恥をかく事になるのだからな」
「そうですか……」
何時も通りの会話。
たしかに、前回来た時に購入した物と言えば靴や洋服に下着で、表面上とは言え嫁ぐ形を見せるなら、ある程度の身嗜みをする事は当然とも言える……のかな?
全てのお金を高槻さんに出してもらうのは心苦しいけど、私には経済力は皆無どころか借金があるので、強くは出れない。
神社を守るという名目は二人とも一致しているけど、関係性は変わらないことに心の中で嘆息しながら、彼と一緒に宝石店に入る。
――ん? 宝石店!?
「いらっしゃいませ」
身嗜みがシッカリと整った美人さんが高槻さんに近寄り話しかけてきた。
「本日は、どのような品をお探しですか?」
「指輪のサイズを測ってもらいたい」
「えっと、どなたの……」
「莉緒」
どうやら、私の話をしていたみたいで――、そして指輪というのはたぶん……。
――とっても高い!
「あの、そんな高いモノは……」
「気にするな。必要経費だ」
高槻さんの言葉に苦笑いする女性店員さん。
言い方! もう少し言い方! 言い方を考えてから発言して!
「分かりました。それでは、こちらを――」
サイズが計り終わったあとは、女性店員さんが、ショーウィンドケースの中の指輪について説明してくる。
ただし! その指輪は、どれもが100万円近い!
これが必要経費だと割り切る高槻さんの金銭感覚が私には理解できない。
私としては1000円くらいの指輪でもいいのに……。
「ふむ。それでは、これとかどうだろうか? 莉緒」
「は、はい」
完全に蚊帳の外に置かれていた私。
名前を呼ばれたことで近寄ると、思わず身体が倒れそうになる。
「ひ――」
「お客様、大丈夫ですか?」
「いえ。駄目です」
思わず心の中の声が漏れてしまった。
さすがに170万円のダイヤの指輪を渡されたら心臓が止まる自信がある。
「気にするな。俺の莉緒への気持ちだ。婚約指輪だと思ってくれればいい」
つまり、質屋に入れてもいいと? と、一瞬思ってしまったけど、そんな事をしたら確実に問題になること受けあいなので――、そもそも私には拒否権なんてない。
「婚約指輪ですか! それは、おめでとうございます」
「あ、ありがとうございます」
素直に『ありがとうございます』とは、心の底からは言えないので、少し表情がたぶん固くなったと思う。
指輪は、調整しなくてもいいくらい私の指にピッタリと合うサイズだった。
「あの、総司さん」
宝石店から出たあと、私は恐る恐る彼に話しかけることにする。
「どうした?」
「表面上とは言え、あまり高い物を購入するのはよくないと思います。散財になりますし」
「そこは気にするな。お前が、着飾っておいてくれないと婚約者だという話を親族が信じない可能性があるからな。これも神社を存続させる為だと理解しろ」
「はい……」
そう言われると頷くことしかできない。
ただ――、
「総司さん、そろそろ背広とかワイシャツを買いにいきませんか?」
「……そんなに何着も必要か?」
「必要です。先ほど、総司さんが私に着飾るようにと言われたとおり、夫なる人がヨレヨレのスーツなどを着ていたら妻が何もしていないと思われますので」
「ふむ……。趣旨返しという奴か?」
「そういう訳ではありません」
「分かった。それでは買いにいくとするか」
ようやく納得してくれた彼と一緒に、スーツを購入しに紳士服を取り扱っている店へと向かった。
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