嫁ぎ先の旦那様に溺愛されています。
一つ屋根の下での事情(3)
昨日の殺伐とした教室の空気が嘘のよう。
ホームルーム時間も、授業の合間の休憩時間も私のことを噂するような声は聞こえてこない。
そして――、お昼の時間になる。
「ねえ……美穂」
「どうしたの?」
「今日って何時も通りだね」
「うん」
頷いてくる美穂。
そして――、頭を下げてくる。
「――え? 美穂? どうかしたの?」
「私、余計なことしたかも知れないから……」
「余計なことって?」
「誰だって人に話せない事情があるってことを皆に言ったの。それで、莉緒のことは見守ることにしたの」
「そう……なんだ……」
――って、見守るってどういう意味?
「ほら、莉緒って一応は身持ち堅いし、特別な理由が無いのに許嫁が出てくるとか考えられないというか……」
「それでクラスの人達は納得したの?」
「うん。それに莉緒の家が貧乏だからって、みんな知っているでしょ?」
「それは……」
たしかに私の家が貧乏で親が問題あるのは人口4000人程度の、この町ではというか学校では有名。
何せ高校の生徒が100人もいないから。
「――ということで、莉緒は安心していいと思う。ただ……」
そこで美穂が言い淀む。
視線が大和の方に向いていることから、あまりいい意味では無い事に気が付く。
「ううん。大丈夫だから。それより美穂、ありがとうね」
私の感謝の言葉に美穂は『えへへっ』と照れるだけ。
いい親友を持って私はすごく幸運だと思ってしまう。
昼食を食べたあとは、残りの授業を受け終えてから帰り仕度をする。
「莉緒、終わった?」
「うん」
短く言葉を返しながら二人で昇降口に向かい、靴箱から学校指定の黒色のローファ―を手に取り履く。
校門前に到着したところで、すでに車が停まっていて――、
「宮内さん、お待ちしていました。本日は、ご学友とご一緒ですか?」
――そう、櫟原さんが話しかけてきた。
「私! 莉緒の親友をしている#東間__あずま__#  #美穂__みほ__#と言います」
「これはご丁寧に。#私__わたくし__#、宮内さんの婚約者であらされる#高槻__たかつき__#  #総司__そうじ__#様の秘書をしております#櫟原__くぬぎはら__#  #直哉__なおや__#と申します」
「そうですか」
あまりにも淡泊な反応を見せる親友の美穂。
その様子に、櫟原さんが美穂に興味を持ったような様子を見せるけど――、
「それじゃ、美穂。また明日ね」
「うん。莉緒も無理しないでね」
余計な話に進展する前に、二人の会話を切り上げることにした。
私が乗車したあとに車はすぐに走り始める。
「あの、櫟原さん。どこに向かっているんですか?」
進んでいる方向が神社とは異なることに気が付く。
「高槻様よりホームセンターへ宮内さんをお連れするようにと指示を受けています」
その言葉に、昨日の夜に高槻さんが大型ホームセンターに連れて行ってくれると言っていたことを思い出す。
「高槻さんは、来ないんですか?」
「しばらく会社を空けておりましたので財務処理などで忙殺されています」
「そうなんですか……、――と、いうことは会社で働いているんですか?」
今まで気になっていたけど、聞いても教えてくれなかったことを聞くことにする。
「はい」
会社勤めだということは肯定してくるけど、どこの会社に在籍しているのかまでは教えてはくれなかった。
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