嫁ぎ先の旦那様に溺愛されています。
一つ屋根の下での事情(1)
「はい。お風呂から出てくる時に合わせて夕食の用意をしておきますね」
頷く高槻さんは、浴室へそのまま向かい――、
「総司さん、スーツを」
「ああ……、そうだな」
スーツを預かろうと近くまで寄ったところで、彼の顔色が悪いことに今さながら気が付く。
「お疲れですか?」
「まぁ……な」
スーツの上着だけ預かると、彼は面倒くさそうに洗面所へ入り戸を閉めてしまう。
私は、少ししてから洗面所に入る。
高槻さんは既にお風呂に入っているようでスラックスは畳まれることもなく脱衣かごに入っていた。
「これだと皺になるのに……。そういえば高槻さんが、以前はクリーニング屋を手配していたような事を仄めかしていたから……、それが理由で、あまり気にしないのかも?」
一人、考えを巡らしながら、私はスラックスを脱衣籠から取り出し、上着と共に高槻さんの部屋に向かい、室内に入る。
そこには、この前――、家具屋で購入した新品の家具が備え付けられていた。
私は、両開きのクローゼットを開けてハンガーを取り出してからスーツをかけたあと、台所に戻る。
そして――、夕食の準備を終えたところで高槻さんが裸で現れる。
「――高槻さん! 服! 服を着てください!」
「そうだな」
「なんで、そんなに冷静なんですか!」
下半身だけタオルを巻いた状態の湯上りの男の人の――、他人の裸は女子高生には刺激が強すぎる。
「すぐに! すぐに服を持ってきますので!」
高槻さんを、台所に残したまま彼の部屋へ入りクローゼットを漁るけどパジャマのようなモノが見当たらない!?
「そういえば……」
高槻さんは、いつもスーツ姿だったような……。
あとはYシャツとかシャツとかトランクスしか持ってない?
箪笥を開けていくけど普段着すら殆ど入っていない。
まったく! 生活感がない!
「まって……、普段はどういう服装で生活しているの?」
思わず心の中で突っ込みを入れつつ、トランクスとシャツだけど片手に台所に戻る。
「高槻さん、すぐにコレを着てください」
「……総司だ」
「いまは名前よりも服を着てください。セクハラになりますよ!」
私の突っ込みに彼は小さく溜息をつくと私の目の前でササッとトランクスとシャツを着ると――、
「これでいいな?」
「はい」
「それで莉緒、俺の名前は総司と呼べと言ったはずだが?」
「え? そこを突っ込みしてくるんですか?」
「当たり前だ。お前の仕事は何だ?」
「家事とか……神社の掃除とか……」
「あと表向きは俺の婚約者という立場を忘れるな。男の裸ごときで、照れていたら仕事にならないぞ?」
開いた口が塞がらない。
何と言う暴論。
それでも、立場上は頷くことしかできない。
「はい……」
これは、もしかしたら私の仕事に対する理解度を試された?
そういう思いが沸き上がってきてしまう。
ただ、言われたままというのは納得できないので――、
「総司さん。普段着がまったくありませんでしたので、用意した方がいいと思います」
「そういえば、クリーニングに出したままだな」
何と言うずぼら……。
もしかして生活感がまったくないのでは? と、心配になってしまう。
「あの、今度からは私が洗濯しますので、クリーニングを利用するのは止めてください。お金がもったいないです」
「金ならあるが――」
「総司さんがお金を持っているのは知っています。――ですが、無駄な出費は抑えた方がいいです。――あと、出来ればアイロンが欲しいです」
「アイロン?」
不思議そうな表情で私を見てくる高槻さん。
まさか……、アイロンを知らない?
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