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嫁ぎ先の旦那様に溺愛されています。

なつめ猫

不可抗力なんですよ?




「えっと……」

 少し迷ってしまう。
 することがないから。

「ううっ……寒い……」

 まだ始業式前の一か月前で、3月上旬。
 さらに地肌に直接、巫女衣装を身に纏っている事――、そして朝方の日が昇ったばかりという事もあり、少し風が吹くだけで身体の芯が凍えそう。

「そういえば、以前に巫女服を着た時は、ホッカイロが用意されていたっけ……」

 あとは下にジャージも着ていたから、年末でもそれなりに大丈夫だったけど、いまの状態で年末年始を超すなら風邪を引くことは避けられそうもない。

「いけない、いけない」

 ぶんぶんと音が鳴りそうなくらいの勢いで頭を左右に振る。
 その際に、腰まで伸ばしてあるというかお金が無くて美容院にいかないので伸びてしまった髪が左右に振られる。
 一応、髪ゴムで止めてあるけど、これから仕事をするのなら邪魔にならないように纏めた方がいいかも知れない。
 
「――と、とりあえず! ま、まずは仕事をして身体を温めないと!」

 身体を動かしていれば寒さは何とか凌げると思うから。
 そうなると――。

 母屋の裏手の方へと回る。

「あった!」

 そこは、母屋のリフォームからは漏れていたのか、もはや何時でも倒壊しそうな木製の物置小屋があった。
 建て付けも、5年近く放置されていた事もあり、戸口を横にスライドさせようとしただけで、音を立てて物置小屋が崩壊。

「……こ、これって……、怒られたりする? 待つのよ、莉緒。ここは職場で、備品が壊れたのは、雇い主が悪いって事に……ならないよね?」

 絶対、あの不愛想な高槻さんから罵倒が飛んでくるのは火を見るよりも明らかで、それを思うと思わず溜息が出てしまう。

「――と、とりあえず時間をおいて報告をすると怒られそうだし……境内は綺麗だから物置小屋が崩壊したことを報告しにいこ」
「おい! 莉緒!」

 そう決心したところで、後ろから威圧感のある声が! 
 ギギギギッと、壊れたロボットのように振り向くと、そこには、先ほどまでしていた眼鏡を外した高槻さんの姿が!
 目を吊り上がらせて怒っているのが分かる。
 相変わらず目つきが悪い。

「――は、はい……、な、何でしょうか? 言い訳を許して頂けるのでしたら、物置が崩壊したのは、5年近くも雨ざらしになっていた事でして、私には一切の落ち度が無い事は裁判でも説明をしたく存じまして――」
「はぁ……、なんだ、その言葉遣いは……。それよりも怪我はないのか?」
「――え?」
「だから怪我はないのか? と聞いている」

 物置が崩壊したことよりも私の身を案じてくれている事に少し感激しながらも頷く。
 もしかしたら、高槻さんは目つきが悪くて、ヤクザ顔負けの顔をしていて威圧的に話してくる俺様口調のちょっと傍若無人な苦手な人だけど、いい人なのかも?

「そうか……」

 彼がホッと表情を見せる。
 やっぱり私の身を!

「お前に怪我あったら、俺の監督責任が問われるからな。まったく余計な心配をさせるな」
「……」
「それと、その物置小屋は近々、新しいモノにする予定だったから壊れても大丈夫だ。あと、昨日の箪笥だがお前の借金にプラスしておいたからな」

 髪の毛を掻きながら、それだけ言うと用事は済んだとばかりに母屋へ戻っていく高槻さん。
 
「何よ……。少しでも、いい人だって思ったのに……」

 ――まったく違った!

 分かっていたけど! 分かっていましたけど! もう少し、こう! 優しく接してくれてもいいのではないのか? と、思ってしまう。
 それに、昨日は母親の形見だと言ったら「大事な物なんだろう?」と、すぐに買い戻してくれたのに……。

「借金が増えました……。――というより、私って時給いくらで雇ってもらっているの?」

 もう本当に、今更だけど! 本当に今更だけど! ようやく、その事に思考が周り思わず呟く。

「――おや、宮内さん。立ったままで、どうかしましたか?」
「櫟原さん!?」

 思わず驚く。
 彼に語り掛けられるまで気が付かなかった。
 色々と考え込んでいて周りが見えていなかった。
 彼は、スーパーで買い物を終えたのだろう。
 スーパーの袋を両手で持っている。

「どうかしましたか? 何が驚くことでも?」
「――い、いえ! ――な、何でもないです! それより、ずいぶんと買い物が早かったんですね」
「そうですね」

 櫟原さんは、私が見た事が無い店の名前の袋を手に持っている。
 村の近くには小さな雑貨店しかなくてスーパーなどは無かったはずだけど……。

「月山……雑貨店?」
「はい。最近できたスーパーですね」
「名前からして雑貨店って感じに見えますけど……」
「規模は中規模スーパーと言ったところでしょうか? それなりに価格も安くて助かりました」
「そうなんですか」
「ですが、車ではないと少し距離がありますね。それでは、お願いできますか?」

 その言葉にハッ! とする。
 そう――、朝食がまだで……。

「はい。急いで朝食の準備をしますね」
「よろしくお願いします」

 台所までは、櫟原さんが荷物を運んでくれた。
 私は、巫女服から制服に着替えたあと、その上からエプロンをして料理をする。
 食品を購入してきてくれたはいいけど、男性の感覚で購入してきたのか調味料が殆どないことに私は困りつつ料理を終えて高槻さんと、櫟原さん、そして私の3人で初めての朝食を口にした。




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