没落貴族の俺がハズレ(?)スキル『超器用貧乏』で大賢者と呼ばれるまで
第百六十三話 ルシエールを救うために
「ルシエールちゃん、今頃ご飯かな?」
「かもね。俺達より先に帰ったし、こっちが食べている間に来るかも。ヨグス達もまだ来ていないし、」
「でーにーちゃ、だっこ」
「おいで、アイナ」
「あーいいなあー」
「デダイトも好きだもんね、アイナは」
「あーう!」
ギルドから戻り、リビングでルシエール達の到着を待つ俺達。ノーラと兄さんはアイナと遊び、リューゼとジャックはソファでだらりとし、マキナとクーデリカ、パティはお風呂を待ちながら談笑していた。
「本当!? サージュちゃんわたしにも牙をくれるの!」
<うむ。ラースに聞いたが、もうパティとも一年。信頼できる友達だと思っている。向こうの山に降りた時、渡すとしよう>
「良かったわね、パティ」
「パティちゃんは将来何になるの?」
「わたしはねー」
アイナが兄さんに夢中なため、サージュを中心に置いて、特にパティが飛び上がって喜ぶ。一年前から飛び入りでクラスメイトになった彼女だけど、対抗戦やギルド部で活躍してくれている。スキルは――
「旦那様! 旦那様!」
「ん? なんだろ」
「何かあったのかしら……?」
食事ができたにしては父さんを呼ぶ声に焦りが混じっている気がする。俺達はリビングから顔を出し、廊下を見ると、メイドさんがバタバタと父さんのところへ走り、他のメイドさんは玄関へ水を運んでいた。首を傾げながら玄関へ赴くと、見たことがある人が息を切らせて座り込んでいた。
「あれ? ルシエールのところの?」
「ああ、ラース君! た、大変なんだ! お嬢様が……ルシエールお嬢様が誘拐されてしまったんだよ!」
「え!?」
その言葉を聞いて俺達は飛び上がって驚き、俺は慌てて従業員のお兄さんに駆け寄って事情を聞く。
「誘拐ってなんでさ! バスレー先生と一緒だったはずなのに!」
「それがバスレー先生も暴行を受けてやっとのことで店に伝えに来てくれたんです……大旦那様は自警団へ行っています」
「そんな……」
バスレー先生も伊達に教師じゃなく、魔法と【致命傷】のスキルで相手を弱点を見抜く力は抜群にヤバい。特に投石や弓矢などの投擲系が得意なのだ。
だけど。誘拐となれば隙をついて近づいてから連れて行くだろうから、力任せに襲ってくる相手とは相性が悪かったというところだろう。
「くそ……!」
「行くかラース!」
俺が玄関を飛び出そうとしたところでリューゼも出ようとする。そこに後ろから父さんの声がかかった。
「待つんだラース、どうするつもりだ」
「どうするって……助けに行くんだよ!」
「まずは落ち着け、どこに行ったかもわからないだろ?」
「……確かに」
父さんに言われて一旦飛び出すのを止め、お兄さんの話を聞く。すると、ソリオさんが自警団に行ったこと以外に、誘拐犯は王都方面の門へ向かったらしいということと、バスレー先生がティグレ先生と学院長へ話をしに向かったことを聞くことができた。
「王都方面だね。父さん、俺は行くからね?」
「先生と一緒ならいいとは思う。下手に人質に取られて身動きが取れなくなることもあるしな」
「でも急がないと見失うよ!」
「そうだぜ、ローエンのおじさん! 俺達もルシエールを助けたいぜ!」
俺とリューゼが詰め寄っていると、サージュが飛んできて口を開く。
<ラース、我に乗れ。ルシエールを誘拐などとふざけた真似をする輩を許すわけにはいかん。我ならば一瞬で追いつくだろう。父殿、構わんな?>
「サージュが行くか……大騒ぎにならないか……」
「父さん、世間体を気にしている場合じゃないって! 途中で先生を拾っていくから!」
「分かった。俺は自警団へ出向いて状況確認をする。気を付けろよ」
俺は頷き、庭へと向かう。サージュはすぐに大きくなり、俺達はかごを乗せてその中に乗る。
「ゆ、誘拐犯……ぶるぶる……」
「パティは無理しなくてもいいよ?」
「いや、ルシエールちゃんはお友達です! 助けに行きます!」
「ぼっこぼこにしてやるわ……!」
「絶対許さないの!」
<ゆくぞ!>
兄さんとノーラはこっちに残ってヨグスやウルカ達へ説明をする要員になってもらい、下でアイナと一緒に手を振っていた。
「サージュ、ティグレ先生を連れて行こう」
<うむ。頼りきりで申し訳ないが……>
低空飛行でまずはベルナ先生の家がある山を目指す。眼下では自警団が列をなして門へと向かっているのが見える。
「今から追うみたいだな」
「うん。変な人が増えたから自警団の人数も増やしたけど、誘拐騒ぎだ。もう少し見回りのことを考えてもらう必要があるかもしれないね」
「それか相当計画していたか、よね」
マキナが呻くように言い、俺達は口を噤む。元々ルシエールだけを狙っていたならあり得ることだ。身代金目的だろうか?
そんな考えが脳裏に浮かんだところで、ティグレ先生と学院長先生が走っているのが見え、すぐにティグレ先生が顔をあげ俺達に気づいた。学院長先生のレビテーションでサージュの背にあるかごに乗りこみ口を開いた。
「おう、とんでもねぇことになってんな。くそったれが、ルシエールに何かあったらひき肉じゃすまねぇぞ……?」
「誘拐はその後、さらった人の処遇を考え重い刑罰が下る。それこそ縛り首や終身刑、流刑もある。……万が一殺してしまってもいいともされている」
学院長先生が珍しく怖い顔でそんなこと言い、俺達は戦慄する。しかし、かわいい生徒をさらった人間を許さないという気持ちは分かる。
「あれ、バスレー先生!」
「本当だ、手を振っているぞ? なになに……わ・た・し・も・の・せ・ろ?」
「サージュ、連れて行こう。話を聞きたい」
<任せろ>
サージュに空中で停滞してもらい、俺がレビテーションで迎えに行くと笑みを浮かべて学院長先生へ報告をし始めた。
「教師への伝達は終わりました。これから王都へ向け誘拐犯の後を追います」
「ご苦労だった。念のために呼んだが、我らが早かろう。サージュ君、頼む」
<承知! 速度を上げるぞ……!>
サージュが首を体と水平にすると、風切り音が大きくなり、俺達はかごを掴んで風圧に耐える。
「くっくっく……馬鹿め、わたしのファイアランスを受けた奴らが捕まっていますね。古傷が疼いて歩くこともままならないでしょうからね。次はルシエールちゃんを連れて行った二人組……命があると思うなよ……?」
町の外で自警団が二人組を囲んでいるのが一瞬目に入った。どうやらバスレー先生のスキルで【致命傷】を受けたらしい。
「無事、だよねルシエールちゃん……」
「大丈夫だよ。ルシエールだってAクラスで鍛えているんだ、もしかしたら逃げているかもしれない」
「そうだよね!」
クーデリカの言葉に微笑んで答えるが、用意周到な相手から逃れるのは難しい。逃げ出しているだろうというのは気休めにしかならない。先生達は分かっていると思うが言及はせず、眼下をじっと見ながら、人影や馬車がいないか探す。
夜で暗いため、自警団が持っていたたいまつのような灯りが無ければどこに何があるかは分からない。
だが、しばらく進むと街道でファイアを掲げる人影を見つけることになり、俺達はそこで二重の意味で驚くことになる。
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