没落貴族の俺がハズレ(?)スキル『超器用貧乏』で大賢者と呼ばれるまで
第百十九話 ランチタイム①
「ようし、飯だ飯だ!」
「それじゃまた後で!」
テントから出るとリューゼが伸びをしながら笑い、ウルカも両親の下へ走って行く。投擲競技しか出ていないけど、二位だったし報告したいのだろう。
「じゃあ私達も行くわ! さっきパン食い競争で食べたパンが荷車で売っているらしいから一個買おうと思ってるの」
「あ、わたしも食べてみたい!」
「私はお姉ちゃんを探してからお父さん達のところへ行くね」
マキナとクーデリカ、ルシエールもテントから出ていきそれぞれの場所へと戻っていく。俺もノーラと戻るつもりだけど、その前にっと。
「ヨグス、午前の競技は残念だったけど、午後の魔物当ては頼むよ!」
「……! ああ、もちろん。期待してくれていいよ! それじゃ体力をつけてこようかな」
ヨグスが少し落ち込んでいたので、俺は発破をかけることにした。慰めよりは負けたことを認めたうえで期待していることを言った方が俺達Aクラスには効果があるのだ。
案の定、声をかけるとヨグスは元気を取り戻し両親の下へと行った。
「オラも魔法頑張らないとー!」
「だな。さ、兄さんを探して戻ろう」
「俺も行くかあ。ヘレナも行くだろ?」
「当たり前よう♪」
ノーラとジャック、ヘレナと一緒にテントから出ると兄さんがこっちに向かってくるのが見えた。ジャックとヘレナは俺達に手振って先に行き、俺とノーラは兄さんと合流する。
「ラース、ノーラこっちだよ!」
「デダイト君、計算早かったねー! 難しい計算でオラ全然分からなかったー」
「ありがとう、ノーラ。でも乗馬はダントツだったじゃないか。クラスで僕の彼女だってみんな知ってるから驚いていたよ」
「えへー、恥ずかしいかもー」
そんな会話をふたりでしながら歩いていく。俺は仲のいい二人の様子を見ながら隣を歩く。一時はどうなるかと思ったけどこういう幸せそうな兄さんを見るのは嬉しいものだ。
で、父さん達を探していると、観客席の割といい場所に父さんと母さん、それにニーナにハウゼンさんが居た。するとそこへベルナ先生にティグレ先生が合流し一気に人が増える。
ニーナもベルナ先生が来れば当然その伴侶、もしくは候補が来るのは当然か……ん? まてよ、そうするともしかして俺だけ独り身……?
あ、いや、俺はまだ十歳。慌てなくてもいいんだ。……それに恋愛はまだよくわからないしね。そこだけはもしかすると本当に十歳相応な気がする。
どうでもいいことを考えていると、兄さんが眉を潜めて口を開く。
「……なんかよく見たら父さんと母さんに話しかけている人、多くないか?」
「そういえば……って、母さんと話している人、マキナのお母さんじゃないか! 父さんはルシエールのお父さんと話している……い、いや、クーデリカのお母さんもいるぞ!?」
「ほんとだー! あ、ルシエールちゃんとルシエラちゃんとマキナちゃんにクーちゃんもいるー」
ヘレナ以外のクラスメイトの女の子が勢ぞろいしていて、ノーラは歓喜しながら母さんの下へ突撃する。靴を脱いでシートに上がると、母さんの腰に抱き着く。
「お義母さんー♪」
「あ、お帰りノーラ。デダイトにラースも。大活躍だったわねみんな」
母さんがノーラの頭を撫でながら俺達に目を向ける。シートの上に乗ってから頷き答えた。
「うん。みんなのおかげでポイントも一年生だと一位だよ」
「僕達三年のAクラスもそうだね」
<うむ、流石我の友達だ>
サージュがベルナ先生の膝の上でぱちぱちと拍手をしてくれた。
「あ、サージュ。ダメだよあまり母さんやベルナ先生を困らせたら」
<気を付けよう。我も何かに出たいものだ>
好奇心旺盛なドラゴンである。
そんな中、マキナとクーデリカの母親が母さんに話しかける。
「ラース君達戻ってきましたね奥様。……ウチの子、将来いい娘になると思うんですよねえ」
「あら、クーデリカも今は小さいけど大きくなったら大きくなるわ! いかがです?」
「お母さんやめて……」
「恥ずかしいよう……」
マキナとクーデリカは俯いて母親の袖を引っ張っていた。母さんは唇に指を当ててから交互に二人を見て口を開く。
「んー、決めるのはラースだから私からは何とも言えないですねえ。まだ十歳……まあ、ノーラは別として、他にいい男の子が現れるかもしれませんし?」
母さんのやんわりとした返しに、お母さん方は拳を握りしめて言う。
「いいえ! 魔法も体術も凄くてさらに領主の息子。こんな男の子は現れません! ねえマキナ、きちんと好――」
「わーわー!? またお母さんはもう!」
すると、父さんと話していたルシエールのお父さんであるソリオさんがこちらに向かって喋りだす。別の意味で顔が赤いのはまさか……
「ははは、ラース君はウチのルシエールと結婚してもらうつもりだからダメだよ。僕ぁブラオの件で申し訳ないことをした……ルシエールがいいと言えば嫁がせるつもりさ! はははは!」
いつもと違い随分陽気なソリオさん。そこでルシエラが口を開く。
「あ、お父さんお酒飲んでる!?」
「ああ……それで……ご、ごめんねラース君、お父さんが変なことを言って」
「あ、うん、俺は大丈夫だけど……」
「ぐぬぬ、クーちゃんもアピールしないと」
「ええ!? は、恥ずかしいよ……」
「いいなあラース、選び放題じゃないか。ひっく」
どうやら父さんも飲んでいるらしく無責任なことを言う。さてどうしようかと思っていると、ベルナ先生がお母さん方に話し始める。
「まあまあ、子供たちには子供たちのペースがありますしいいじゃありませんかぁ♪ ラース君も困惑していますし、まずはお昼にしませんかぁ?」
と、顔は笑っているけど声色は少し低い。親の言い分で困ったことになっていたベルナ先生だからこそ、こういうことを親がとやくいうものじゃないと思っているのかもしれない。
「そ、そうですね。それじゃ、お弁当にしましょうか」
「ウチはニーナが作ってきたわよ。もちろん私もね」
「わーい♪」
ノーラがバスケットを受けとり布を取ると、サンドイッチにおにぎり、定番の卵焼きにソーセージ、トマトにフルーツ、牛串焼きと片手で食べられそうなものがたくさん入っていた。
「いつものお弁当より少し豪華にしていますからねー! さ、ハウゼンさんもどうぞ♪」
「ああ、これはどうも! しかし学院の対抗戦は初めてみたけど凝っているな。子供がいたらいい教育になりそうだ」
「まあ、子供だなんて……気が早いですよー……」
「え? ああ、はは……」
ニーナとハウゼンさんのやり取りにみんなで肩を竦めて苦笑すると、ふたりが気づき顔を赤くして小さくなっていた。
「それじゃ、いただきまーす!」
「まーす!」
「いただきます」
ようやく俺達はお昼にありつけるのだった。おや、ルシエール達のお弁当はと思っていると、お母さんが大きなバッグを持って歩いてくるのが見えた。
「おかあさーんこっちー!」
「はいはい。あ、お酒飲んでるの? もう、目を離すとこれなんだから」
「まあまあ、ローエンと話す機会もあまりないしいいじゃないか」
「商会の会合で一緒じゃありませんか? ……ま、今日はいいでしょう。ちゃんと応援してくださいよ?」
「分かってるって。さ、それじゃ僕達もいただこうか」
「うん! ねえ、デダイト君、そっちのサンドイッチと私のパンケーキ一枚交換しない?」
「いいよ、ノーラもする?」
「するー!」
「うう、ノーラめ……」
「お姉ちゃん、私の友達なんだから睨んだらダメだよ」
「ラ、ラース君、わたしのおかずと交換しよ……?」
「いいの? 折角だし、交換しよう。マキナは?」
「あ、うん! 私もこれを――」
と、気づけば俺の周りに女の子が集まり、食べながら雑談に花を咲かせる。
うーん、本人たちよりも親が盛り上がるタイプだとこうなるのかと、少しマキナとクーデリカに同情してしまう俺であった。
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