没落貴族の俺がハズレ(?)スキル『超器用貧乏』で大賢者と呼ばれるまで
第百十一話 対抗戦始まる!
「さあて、勝ちに行くぞ!」
「おー! 腕がなるわね……! くっく……」
「マキナ、どうしてそんな負けそうなセリフを……」
すでに体操着に着替えてクラスに待機している俺達。リューゼが気合十分と言った感じで声を上げるとマキナが手をパシンと合わせて不敵に笑う。
――今日はいよいよ対抗戦。各々の能力をぶつけ合う、異世界ならではの戦いが始まるのだ。
ちなみに種目別に出るのはこうなっている。
・パン食い競争  マキナ リューゼ
・戦闘競技(魔法無し) 俺 リューゼ マキナ クーデリカ ジャック
・投擲競技   ウルカ ルシエール
・鑑定/探索競技 ヨグス ヘレナ
・乗馬競技  ノーラ
・ロープ引き競技  クーデリカ ジャック
・計算早解き競技  ヨグス
・戦闘競技(魔法のみ) 俺 リューゼ ノーラ ヘレナ ヨグス
・妨害徒競走  ウルカ ジャック
・魔物名前当て競技  ヨグス ウルカ
・ダンス競技  ヘレナ(マキナ)
・お姫様抱っこ競技  俺
・詰め放題競技  ルシエール ノーラ
・一万ベリル競技  ルシエール ジャック
・戦闘競技(無差別)  俺 リューゼ マキナ ウルカ クーデリカ
最初は軽くジャブみたいな感じでパン食い競争。
これは去年の兄さんの応援で見ていて面白かったのを覚えている。なぜならマキナとリューゼがお昼に良く買いに行くパン屋さんのパンがぶら下げられているからである。
デンジャラスホットドッグとハニークリームトースト、あの人気商品を作っているお店が、対抗戦専用のパンを作ってくれると話題で、実はどのクラスも参加希望者が殺到している人気競技。
なので俺達はいつも行く二人を推したんだ。ちょっと興味はあるけど、どうだったか聞いてみればいい。
「というわけで対抗戦だ! ケガに気を付けろ……っていっても今日は難しいか。ケガを気にせず全力でやれ! 勝ち負けは気にすんな、全力でやることに意味がある!」
「回復魔法使いが居るみたいだけど、そんなこと言ってるとまたベルナ先生に怒られるぜ? そう言えばベルナ先生はどこ行ったんだよ」
ジャックが椅子を傾けながら言うと、ティグレ先生は口をへの字にして答える。
「なんかやって欲しいことがあるんだって、女教師にどっか連れていかれたぜ。後からのお楽しみだとよ。まあなんだ、今年は俺達も何かやれって言われてっからなあ」
「ティグレ先生もなにかやるんだー! 楽しみー!」
「ノーラ、あまり嬉しそうにするな……期待されても困る。さて、俺からは特にねぇが、お前等なんかあるか?」
「学年で優勝したら何かあるんでしたっけ?」
「おう、ウルカ。あるぜ? ラースとルシエールは知ってるんじゃねぇか?」
ティグレ先生が俺とルシエールに顔を向ける。確かに去年は兄さんのクラスは学年別で優勝したから知っているけど……
「確かに知っているけど、それは楽しみにした方がいいよ?」
「うん。今年は私達も頑張って優勝しよう!」
「ちなみに毎年同じなの?」
「ああ、同じだ。ま、知らない方が面白いか。んじゃそろそろ行くかねえ」
「「「おおー!」」」
ティグレ先生がにやりと笑って言うと、俺達も笑い席を立つ。今日は俺達だけの祭りみたいなものだ、楽しみに決まっている。
他のクラスと話す機会も意外とないので、これは貴重なコミュニケーションといえるだろう。
外に出ると俺達以外の生徒もぞろぞろとグラウンドに出ていく様子が見え、気合を入れるもの、だるそうにしているものなど様々だ。
こういうのはどの世界でも変わらないものなんだなと苦笑しながら整列をする。
戦開始の前にまずは学院長の言葉があり、代表で頑張ります的なことを宣誓して俺達は自分たちのテントへと向かう。マキナとリューゼは早速競技開始なので、別の場所で待機となる。
「始まるわね♪ ラースの努力は無駄にさせないからね」
「マキナに言ってやれよ、あいつが一番頑張ったろう……」
ヘレナにそう言われ俺は嘆息する。まあ見てのお楽しみってところだけど、そこでノーラがキョロキョロしながら口を開く。
「そういえばベルナ先生全然見なかったねー。どこ行ったんだろー」
「確かにいなかったね。わたし達の応援して欲しいのに」
クーデリカが残念そうに言うと、直後『ヒィィン』という空気をつんざく音が鳴り響き、陽気な声が聞こえてきた。
「さー、今年も始まりました! 学年対抗戦! 今年はどのクラスが栄光を勝ち取るのでしょうか! 司会はわたくし、一年Eクラスの副担任”バスレー”ちゃんと――」
「一年Aクラスのベルナがお送りしますねぇ♪」
さっきのつんざき音は風の音響拡声魔法”メガホーン”だったのか。というか、特別席みたいなところに、赤毛のめちゃくちゃ元気のいい女の先生と一緒に、ベルナ先生がにこにこしながら座っていた。
「あんなところに!?」
「解説役ってところかな? 俺達の活躍をあそこで見てくれるならいんじゃね?」
「そうだねー! よーし、頑張らないと!」
ある意味特等席なので俺達のやる気も出てくる。ローテーションで練習をしていたから顔を合わせないこともあったしね。俺達がやる気になっていると、解説のバスレー先生がぺらぺらと喋っている声が聞こえてくる。
「さて、今回隣に座っているベルナ先生はつい最近教師になった新米さんなんです!」
「よろしくお願いしますね、先輩」
「先輩! いい響きです……! 今年から赴任したのでわたしもそれほど変わらないですが、先輩は先輩ですからね! そしてなんとベルナ先生はお隣、ルツィアール国の第三王女なんですよ!」
「あ、あの、そういう個人情報はちょっと――」
「さらになんと! 同じクラスのティグレ先生と恋仲でさらに婚約までしていぶぷろふぇ!?」
「そういうのはダメですよぉ? さ、パン食い競争の子たちが出てきました♪ ……二十歳になったんだから少し大人しくしましょうねえ?」
「は、はいぃぃぃ!」
……ここからギリギリ見えたけど、バスレー先生の鳩尾に、ベルナ先生の拳がしっかり入っていた。怒らせるとベルナ先生は怖いから仕方ない。口は災いの下。バスレー先生もこれで教訓としてくれるといいけど。
「それでは選手の入場でーす! まだまだ可愛い子羊たちが、今日ばかりは狼に変わる瞬間をとくとご覧あれ! わたしの夢は玉の輿! 頑張ってください生徒の皆さん!」
ダメだ。
あれは反省しないタイプの人間だ。関わり合いにならないよう気を付けよう……。あ、ティグレ先生が行った。あ、ああ……拳骨……あれは痛い……
さて、それはともかく競技の始まりだ。リューゼとマキナはどうかな?
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