没落貴族の俺がハズレ(?)スキル『超器用貧乏』で大賢者と呼ばれるまで

八神 凪

第百八話 予定は未定にて決定に非ず?


 クラスに入り、みんなと朝の挨拶が終わったところで先生たちが入ってくる。ティグレ先生は焦り顔で、ベルナ先生はむっつりと怒り顔をしていた。

 「……」
 「お、おはようみんな。今日も午前中は授業で、午後からは練習だからなー」
 「は、はーい」

 ……鬼のように強いティグレ先生がベルナ先生に威圧されていた。
 
 「ど、どうしたのベルナ先生?」
 「怖いんですケド……」

 前の席にいるマキナとヘレナが冷や汗をかいてそう言い、ベルナ先生がティグレ先生を見ながら答える。

 「ラース君やリューゼ君相手に本気で戦ったみたいじゃない? で、ラース君の左腕、治りきらなかったんでしょう?」
 
 どうやら俺をコテンパンにしたのがダメだったようで、主にこのケガについての怒りのようだ。

 「い、いや、俺が本気でやってくれって頼んだからティグレ先生は悪くないよ! なあ、リューゼ!」
 「お、おお……そうだぜベルナ先生。俺もちょっとケガしたけど、練習だし仕方ないだろ?」
 「そお……? でも、この人は出鱈目な強さだから、ティグレがきちんと考えないとダメだと思うの」
 「う……め、面目ねぇ……」

 俺達は慌ててベルナ先生に俺が望んで戦ったことを説明すると、口を尖らせていたものの、何とか誤解が解けて普段通りのベルナ先生に戻った。
 もちろんティグレ先生が俺を抱きかかえて喜んでいたことは言うまでもない。

 そんな緊張する一幕が朝からあったものの無事に午前の授業が終わり、お昼休みになる。俺が伸びをしていると、ルシエールとクーデリカが席をくっつけながら声をかけてきた。

 「ラ、ラース君は今日どうするのかな? 戦闘の練習は無理だよね……」
 「うん。俺も兄さんと同じで戦闘競技と、お姫様抱っこ競技だからこの腕だとどっちも厳しいかな」
 「無理はしない方がいいよね」
 「お昼を食べている間に考え……あ、あれ!?」
 「どうしたの? ……あ!?」

 俺がカバンからお弁当を出そうとカバンを開けるとそこには――

 「サージュ! お前いつの間にカバンに入ったんだよ!」
 <……む……。おお、ラースやっと見つけてくれたか>
 「見つけてくれたか、じゃないよ。ああ、俺のお弁当食ったな!?」

 カバンにはすやすやと寝息を立てるサージュが入っていた。
 確かに頭に乗るくらいの大きさだし、俺のカバンは教科書が入っていないので確かに入らなくはない。それに教科書は机に入っているからカバンを確かめないから……
 
 <美味かったぞ。午後からは自由時間と聞いているから、我も学院を見て回りたい>
 「自由時間じゃないって……」
 「あーあ、サージュ友達を困らせたらダメだろー?」
 「サージュいけないのー」

 机の上であくびをするサージュに脱力する俺と、窘めるジャックとノーラ。キョロキョロと顔を見ながらサージュが焦る姿が目に映る。
 来てしまったものは仕方がないけど、一応ティグレ先生の許可を得ないとなあ。まあ、それはそれとして――
  
 「お昼抜きかあ……」
 <すまぬ、いい匂いがしていたのでつい……>

 ぺこりと頭を下げるサージュ。なんとなく可愛かったので、俺はため息を吐いてから頭に手を乗せて口を開く。

 「ふぅ、いいよもう。でも、学院長先生に言って、サージュが来るのを容認してもらうか、ギルドでミズキさんとかハウゼンさんに預けるのも考えないといけないかな? ギルドなら誰かと依頼でも受けていたら退屈にはならないでしょ」
 <うむ。だが、我はお前達と居たいのだ。そこの隅でもいいから居させてほしい>

 すると、お昼でクラスに来た兄さんとルシエラが呆れた口調で言い放つ。

 「うーん、大胆に潜入した割には要求は小さいんだね、サージュ」
 「みんなと一緒の空間に居られればいいんでしょー、この子。なんとなくわかるかも」
 
 ヨグスやウルカ、ヘレナも集まってきてわいわいとしたお昼になる。リューゼとマキナは相変わらずパン食で、パン食い競争にエントリーしている。
 
 机にお弁当が置かれ始めたのでサージュがノーラの膝の上に鎮座する。そこで、クーデリカが俺声をかけてくれた。
 
 「あ、わたしのおにぎり一個食べる? 領主邸で出るご飯より全然ダメだと思うけど……」
 「え? いいの! いやいや、俺が産まれた時は農家みたいなもんだったし、そういうのでも好きだよ。ありがとう」
 「えへへ、良かった。どうぞ」
 「それじゃ、私はソーセージをあげるね」
 
 ルシエールも笑顔でソーセージをお弁当の蓋に乗せてくれ、兄さんとノーラもおかずをひとつずつ掴んでいた。

 「僕は卵焼きかな」
 「オラはブロッコリー」
 「それノーラが嫌いなやつじゃないか……孤児院の院長に怒られるよ?」
 「えへー」

 それでも手元に戻す気は無いようで、笑顔で誤魔化した。さらにジャックが焼き魚の切り身を一つ置き、ウルカがプチトマトを差し出してくれた。

 「……すまない、僕から出せるものが無い……」
 「あー、いや大丈夫だってヨグス! これでもう立派なお弁当になったしさ」
 
 別になくても問題はない。やらかしたのはサージュだからね。

 「さて、とりあえずご飯はいいとして、午後からだな……」
 「むぐ……その腕じゃ派手な動きはできないもんね。痛い?」
 「痛いよ!? 触らないでくれるかい!」
 「あ、ごめん、つい……」
 「お姉ちゃん、クラスに帰る……?」
 「ごめんって!?」

 ルシエラが俺の腕をつつき、鈍痛がはしった。ルシエールが怖い顔をしてくれたので留飲を下げていると、マキナとリューゼが戻ってくる。

 「おう!? サージュがいるぞ!?」
 <うむ>
 「うむって……まあ、どうせラース君のカバンにでも入ってたんでしょうね」
 <う……>

 マキナが鋭いツッコミを入れながらパンを紙袋から取り出し口に運ぶ。そこで黙ってご飯を食べていたヘレナが俺に言う。

 「あ、ならアタシの手伝いをしてくれない? 踊りもそうだけど、魔法の戦闘にも出るからラースに見てもらいたいの♪」
 
 珍しくヘレナからのお誘いに驚く。クラスの中では一番関わりが薄く、ギルド部以外では何をやっているか分からない子だ。魔法の練習なら付き合えるし、俺はすぐにオッケーを出す。

 「いいよ、午後一番から?」
 「そうねぇ、踊りをやってからでもいい?」
 「うん。へレナの【ダンシングマスター】は見たことないし、興味あるかも」
 「きゃは♪ そういうこと言うと、いつか刺されるわよ? ま、そう言うわけだからよろしくねー、マキナにクー♪ あ、ルシエールちゃんもね!」
 「ちょっとこっちに来なさいヘレナ」
 「です!」
 「え?」

 直後、マキナとクーデリカに連行され、ヘレナ達の姿が消える。ノーラはブロッコリーの無くなったお弁当に舌鼓を打ちながら、

 「どうしたんだろうねー? 食べ終わってから話せばいいのにー」
 <そうだな。それにみんなで話せばいいのだ。午後からはラースについていくことにしよう。ケガをしているしな>
 「うん。よろしくねー」

 と、サージュともども呑気なことを言っていた。

 と、とりあえず、今日はヘレナについていくことに決まり、見たことがない踊りを見せてもらうことになった。

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