没落貴族の俺がハズレ(?)スキル『超器用貧乏』で大賢者と呼ばれるまで
第百六話 それぞれの一幕
「ハウゼンさんどうしたの?」
ニーナを前にしてガチガチに固まるハウゼンさんに俺は問いかける。するとハウゼンさんはしゃがみ込み、ひそひそと俺に言う。
「……ラース、彼女は何者だ?」
「え? ウチのメイドのニーナだよ? 俺が生まれる前から仕えてくれてたけど、領主時代の父さんを知っているのに知らないの?」
「メイドに会うことなんてあまりないからな……か、彼女は、その、結婚しているのか?」
ハウゼンさんが顔に似合わずもじもじしながら聞いてくる。ちょっとくるものがあるけど、これはそういうことなのだと思い俺はにやりと笑って答える。
「ニーナは結婚していないよ。少し病気がちなお母さんが居るかな?」
「なに、本当か!」
「うん。母さんとベルナ先生と仲がいいんだけど、ベルナ先生もあそこにいるティグレ先生と恋人になっちゃってさ。結婚したいっていつも言ってるんだ」
「ラース君、悪い顔になってるよ……」
ルシエールが困り顔でそう言うが、これはチャンスだ。ニーナがハウゼンさんを気に入るかは分からないけど、まずは出会いが無ければ始まらない……そう、これはニーナのための――
「どうしましたかー?」
「「うひゃあ!?」」
ニーナが腰を折って俺とハウゼンさんに声をかけてきたので俺達はびっくりして声をあげる。
「い、いや、ハウゼンさんがね――」
「あ、こら余計なことは言わなくていい!」
「あだだだだ!?」
「ちょっと!? ラース様はケガをしているんですからそんな風にしたらいけません!」
「す、すみません……!」
ニーナに怒られて俺の口から手を離し、シャキッとするハウゼンさん。ニーナは薬箱を手に取り、サージュをルシエールに預けて俺の身を起こしてくれる。
「では、わたしがお薬を使いますからね!」
「お手柔らかに頼むよ……」
<ふむ、派手にやられたな。ティグレか?>
「そうだよ。ってわかるの?」
<同世代でお前にここまで傷を負わせることが出来るものはおるまい。やるとしたらあやつくらいなものだろう>
ニーナが手際よく塗り薬をつけ、包帯を三角状態にしてつるしてくれる。よく骨折している人がしている形だ。包帯に腕を置いている状態になったので少し楽になった。
「ありがとうニーナ」
「どういたしましてー。帰ったら奥様にお薬をもらいましょうね。あ、これ、ありがとうございましたー!」
「は、はい! あ、あの、初対面でぶしつけなことをお願いしますが……今度のお、お休みはいつになりますか?」
「はい? ……え、えーっと、次は明日――」
「で、では、明日、俺とお茶しませんか? いいお店を知っているんですが……」
な!? いきなりデートに誘うの!? ハウゼンさんチャレンジャー過ぎない!? 俺がそう思っていると、ニーナが焦りながら返事をした。
「ふぇ!? あああ、は、はい!」
「いいんですか! そ、それでは明日のお昼前にギルドで待っています……」
「あ、はい……」
ニーナも承諾していた。
急に言われて焦ったのだろうか……ま、まあ、結果としてはいいと思うので良しということにしておこう。
しかし、……明日か……いや、待てよ……
「はあ……はあ……か、勝ったわ……!」
「うえーん、マキナちゃんに負けたぁ……」
「おかえりなさい。でも、もうラース君起きちゃったよ?」
「「がーん!?」」
俺が考えている横でマキナとクーデリカが戦いを終えて戻り、クーデリカが地に両手をつけてがっかりする。だけど、俺が起き上がったことを知り、何故か勝ったはずのマキナまで両手を地につけてがっくりしていた。
その後、ニーナに帰るよう促されたけど俺は観戦モードに突入したため、ニーナもその場に残ることに。ハウゼンさんもちゃっかり近くに座っていたりする。
しばらくしてからリューゼとウルカの決着がつき、こちらに戻ってきた。
「剣の腕はあまり変わってないけど、度胸がついたか? 前に出てくるからすげぇやりづらかった」
「そうだね。ルツィアール国で少し実戦になったんだけど、いい経験になったかも? 【霊術】も使い方がちょっと見えて来たし、無差別なら対抗戦に出てもいいかなって思ったくらいだよ」
「おお、負けてられないなぁ、魔法剣も他の属性を使いたいぜ」
「リューゼ君は飲み込み早いしいけそうだと思うけどね」
などと言った話をしながら近づいてくる。
リューゼは本当に友達付き合いがいい。最初、俺に突っかかってきたのはやはりブラオのせいだったんだなとしみじみ思うくらい。
そんなリューゼと同じく、友達大好きなサージュもルシエールと投擲練習で遊んでいたりする。
<こうか?>
「わ、すごい。真ん中だよ」
サージュがパタパタと羽ばたきながらナイフを器用に投げて的に当てる。小さいので手の動きがちまちまして可愛い。
<我くらいになるとこれくらい余裕だ。もう一つはなんだ?>
「これはブーメランだよ。知らない?」
<初めて見る。どうやって使うのだ?>
サージュがルシエールの足元で首を傾げていると、ルシエールがブーメランを実践する。あまり鋭くないけど、きちんと手元に戻ってきた。
<ほう! これは面白い武器だ。我もやる>
「はい」
<むん……!>
気合を入れてブーメランを投げるサージュ。ルシエールとは比べ物にならないくらいのスピードで飛んでいき――
「きゃああああ!?」
<うお!?>
とんでもないスピードで戻ってきた! 力が強すぎて当たったら俺みたいになりそうだ!?
「よっと! おい、サージュ、気を付けろよ? その姿でも力は変わってねぇみたいだし」
<おおティグレか、助かったぞ>
「ルシエールが巻き込まれたら大変だったろうが。友達なんだから安全に気を使えって」
<う、うむ……気を付けよう>
ティグレ先生に言われて項垂れるがすぐに復活した。そこへマッシュさんが起き上がってティグレ先生のところへやってくる。
「……く、くそ、さっきのは油断しただけだ! もう一回勝負だ!」
「やめとけやめとけ。さっきので実力差がわからねぇなら本物のアホだぞ? 魔法もありならあそこにいるラースにも勝てないと思う。あいつに勝てると思ったらやってもいいが……ラース、ちょっとこっち来い」
「はーい」
「ラース様、手を貸しますっ!」
「い、いいよ、足を怪我したわけじゃないし……」
結局ニーナに連れられマッシュさんの前にやってくる俺。ティグレ先生は周りの冒険者に声をかけていた。手を繋いでマッシュさんの前に来たのでなんか言われるんだろうなあと思っていたら、やはり声をかけられた。
「……メイド?」
「うん。ウチのね」
「……貴族?」
「ラース様はこの地の領主のご子息ですよ」
「んな……!?」
驚くマッシュさん。
そこへ準備が出来たとティグレ先生が的に向かって親指を指しながら俺に言う。
「こっち側なら万が一があっても家とか無い。遠慮なくぶっ放せ」
「ええと、ドラゴニックブレイズでいいのかな……?」
「おう。おら、マッシュ。見てろよ?」
片手があれば出来るので、俺は的の前に立ち手をかざす。そして魔法を使った。
「<ドラゴニックブレイズ>!」
使った瞬間、閃光と轟音が俺の手から迸りドラゴンの頭と顎をを模したような炎の塊が的に直撃すると根元から消滅し、空中で霧散した。
マッシュさんは目を大きく見開いてギギギ、と首を俺に向けて口を開く。
「こ、古代、魔法……? ど、どうしてこんな子供が……」
「五歳からやっている努力の成果かな? えっと、それじゃ俺と戦う? 【裂空】のスキル、興味あるんだよね」
「あ、いや……」
マッシュさんが言葉を濁していると、サージュが飛んでくる。
<相変わらずいい魔力だな。我の”オートプロテクション”を破れるだけのことはある>
「まあ、ベルナ先生にも内緒にして、穴を掘ってその中でずっと使っていたからねえ……」
穴の中で気絶したこともあるので、苦い思い出だ。そんな話をしていると、マッシュさんが口をパクパクさせながらサージュを見る。
「ド、ドラゴン……?」
<む、そうだぞ。見てわからんか? 火も吐けるぞ?>
カッっと口から火球を出し、俺が消し飛ばした的の隣の的を消し飛ばした。
「な、なんなんだこいつ、ら……」
「あ、マッシュさん!?」
頭を抑えてマッシュさんは再び気絶した。戦わなくて良かったのかな? そう思っているとハウゼンさんが頭を掻きながらこちらに来て言う。
「ったくこいつは。これで上には上がいるってのが分かってくれるといいんだがな」
「はは、いい薬になったろう。さあ、それじゃ休憩したらもう少し練習だ」
俺達は、はーいと元気よく返事をし、陽が暮れる直前まで練習に励んだ。片腕だけでも素振りはできるし、魔法も撃てるからそっちを【超器用貧乏】で底上げするのも悪くないんだよね。
そして家へ帰り、ニーナが居ないときにこっそり兄さんと母さんにハウゼンさんのことを伝えるのだった。ニーナも心なしか嬉しそうに、今日は実家へと帰っていく。
……腕が痛いし、明日学院を休もうかなぁー
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