没落貴族の俺がハズレ(?)スキル『超器用貧乏』で大賢者と呼ばれるまで
~幕間 4~ 約束
<ルツィアール国>
ラース達が出発したのとほぼ同じころ、レフレクシオン国のフリューゲルとホーク、イーグルの三人は再び謁見の間に来ていた。
「わざわざ来訪してもらったのに騒動に巻き込んで申し訳ない」
開口一番にそう言ったのは国王であるフレデリックだった。それに対し、フリューゲルはやんわりと返答する。
「いえ、元々ベルナ姫とティグレ先生のことを任されて来たものですから、目的は果たせました。こちらこそ、突然の来訪申し訳ございませんでした」
「……うむ、そう言ってもらえると少し楽になる。ありがとう。それにしても今回は色々考えさせられたものだ、特に私の不甲斐なさが浮き彫りになったのがな。ベルナを連れ戻すにしても、ルチェラの心が見えなかったにしても、な。これは早々にヴェイグへこの椅子を譲らねばならんか」
フレデリックが自嘲気味に笑う。するとフリューゲルが言う。
「他国の私めが言うのは憚られますが、レイナ姫がおっしゃっていたように、間違いは正せばいいのではないでしょうか? やり直しが利くなら、それに向かって努力と邁進すればきっとわかってくれますよ」
その言葉に合わせてヴェイグも口を開く。
「そうですよ国王様。まだまだ私も教わることがありますし、騎士団長に相応しいものを育てるため、お義父さんには頑張っていただかねば」
「ヴェイグ……」
さらにグレースとシーナも続ける。
「そうですわ。そんなことを言っていたらベルナに笑われますわよ? 折角、顔を見せに帰ってきてくれる約束を取り付けたのに、帰ってきてお父様が干からびていたら『ざまぁみろ』と思われかねませんわ」
「ふふ、ちゃんと話せばお母さまも分かってくれますよ」
「そう……だな……。うむ、また一から出直しだ。諸君、またよろしく頼むぞ!」
フレデリックがそう宣言すると、脇に控えていた騎士達が姿勢を正し『ハッ!』と声を上げる。それを見ていたイーグルとホークも口元に笑みを浮かべて頷く。
「流石は騎士の国、皆さん手ごわそうだ」
「アンデッドの駆逐、見事でした。我々も腕を磨かねばと気合を頂きました」
しかし、ヴェイグは肩を竦めながら二人の下へ歩いていき、握手を求めながら言う。
「王妃の私室に正面からやってくるアンデッドを寄せ付けなかったお二人が何を言われるか。イツアートの恋人とメイドもあなた方が居ればこそでした。こちらも負けてはおれません」
「はは、お互い様か」
笑いながら握手をするとヴェイグは続ける。
「それにしても、そちらの学院の生徒には驚きましたよ。ドラゴンと対峙して戦っただけじゃなく、まさか手懐けるとは」
ヴェイグが不敵に笑いながら、あの時のことを思い出して言う。フリューゲルは顎に手を当て、少し真面目な口調で言葉をつづけた。
「……ええ、あの子供たちの一人にラースという子がいたのですが、彼の能力が高いことはこちらも知っていました。まだ十歳ですが、個々の力よりも協力して能力を扱うことでお互いを高めているのかもしれませんなあ」
「その中心にいるのがラースという子ですか? ドラゴンに乗って友達を連れてきて、ルチェラから皇帝を引き剥がした?」
「そうです。少し前に色々ありましてな、彼はできれば国で働いてもらいたいと考えていますよ」
フレデリックが『それほどか』と言いつつ、王妃のために鼻血を出してまで戦ってくれたラース達を思い出し、フレデリックは膝を叩いて立ち上がる。
「……そういえば彼らに褒賞を与えるのを忘れていたな。御足労いただき、アンデッドを退けてくれたフリューゲル殿達にもだ。子供たちはまたこちらから誰かを派遣するとして……フリューゲル殿達には何が良いだろうか」
そこでフリューゲルの目がきらりと光り、フレデリックに返す。
「いえ、突然の訪問を出迎えてくれただけでも結構です」
「むう、しかしそれではこの国が礼を欠いていると思われてしまう。何か無いだろうか。なあヴェイグ」
「そうですね……」
ふたりで顔を見合わせていると、フリューゲルはポンと手を打ってから口を開く。
「でしたら、我等レフレクシオンが何か困ることがあればその時、助けていただくというのは如何でしょう。なに、無理な要求は望みませんし、どうしても無理であれば断っていただいても問題ありません。ただ『困っていたら』助けて欲しいのです。それを一筆書いていただけないでしょうか」
フレデリックはフリューゲルの目をじっと見て真意を確かめる。しばらくしてから玉座に座り直し、フレデリックが苦笑しながら口を開いた。
「……分かった。では、何か困ったことがあればいつでも頼ってきてくれ。アルバート王によろしく言っておいて欲しい。後で書状を渡そう」
「ありがたきお言葉。我が国王もお喜びになることでしょう。では、我々はこれで失礼させていただきます」
「あ、あら、もうお帰りになるんですの?」
グレースがホークを見ながらそう言うと、フリューゲルはピンと来たもののやんわりと返す。
「ええ。報告をせねばなりませんし、一度ラース君達のところへも寄っておきたいですからな。……ホーク、お前は少し残るか?」
「こほん! ……いえ、今日のところは帰りましょう。グレース様、またレフレクシオンにもお越しください」
「は、はい……」
イーグルがいいねえと笑いながら踵を返し、フリューゲルとホークもその後を追い、謁見が終了する。廊下を歩いていると、イーグルがフリューゲルへと尋ねる。
「……あれで良かったのですか? 交易か輸出の交渉でも良かったのでは?」
「問題ない。私と国王の考えとしては『恩を売る』ことが最初の目的だったからな。ベルナ先生の件だけでもそれなりに約束はできたろうが、まさか古代の皇帝から王妃を助けるとは思わなかったがな」
「では、そのもしもの時とは――」
ホークの神妙な問いに、フリューゲルも真顔で前を向いたまま答える。
「……べリアース国がいつ我が国に攻めてくるか分からぬからな。そろそろ次の国を狙って動き出すころだろう」
「それですか。東には友好国もありますし、救援要請があるかもしれませんね」
「そういうことだ。さ、それでは書状を貰って帰るとしよう。ラース君達がドラゴンを手名付けたと言ったら国王様はどんな顔をすると思うかね? くくく」
「ますます王都に来いっていうでしょうよ……」
「ラースのクラスごと引っ張られるんじゃないか?」
イーグルが苦笑しながらそう言い、ふたりも笑う。
フリューゲルにとってはかなり大きな『約束』を取り付けることができたとホクホク顔で書状を持ちルツィアール国を後にする。この『約束』が果たされるのはまだ先のこと――
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