没落貴族の俺がハズレ(?)スキル『超器用貧乏』で大賢者と呼ばれるまで
第九十話 籠城戦
「帰ってきたか。サージュが目立っていて人が集まってきた。すぐ行くのか?」
庭に行くと父さんが嘆息しながら待っていた。月明りで照らされて影が町を覆っていたため目撃者が多かったのだろう。
「ウルカは連れて来たし、すぐに発つよ。父さん、帰ったら一緒に説明して回るから今日だけごめん!」
「ふう……こっちは何とかするから行ってこい。友達は命がけで守るんだぞ? デダイトにも言っておいてくれ」
「うん。何かあったら俺も辛いしね。特にウルカは無理して来てもらっているしね」
<では、急ごう。ノーラ達が心配だ>
目立たないように寝そべっていたサージュがのそりと立ち上がりながら俺達に言う。ウルカは鼻息を荒くしながらマキナと共に背に乗る。
「うわあ、ごつごつしてるなあ! かっこいい!」
「しっかり掴まって――」
ウルカが目を輝かせてペタペタと触っていたけど、しっかり掴まってもらうため声をかけようとした。その瞬間、まさかの人物に呼び止められる。
「待ちたまえ、私も連れて行ってくれくれないか?」
「え?」
「が、学院長先生!?」
俺達がサージュの背中から下を見ると、そこには学院長先生が口元に笑みを浮かべて立っていた。隣にニーナが居るところを見ると、騒ぎを聞きつけた学院長先生が訪ねてきたのだろう。
「いいんですか?」
「ラース君の行く先にティグレが居るのだろう? なら私も先生の統括者としていかねばなるまい?」
そう言ってにやりと笑う学院長先生。ティグレ先生に何か言われそうだけど、危機的状況に学院長先生が来てくれるのはありがたい。レッツェルとの戦いで出来る人だと分かっているしね。
「それじゃお願いします!」
「よろしくなドラゴン君。私はリブラという」
<サージュだ。なかなかの手練れのようだな、友達を助けるためよろしく頼む>
「ほう……ああ、もちろんだよ」
学院長先生がサージュの言葉に感嘆の声を漏らす。他に知らないけど、礼儀正しいのかも? そうこうしている内にサージュが浮き始め、俺達はぐっと掴みやすい鱗に手をかける。
<飛ばすか?>
「魔力回復の薬が少しあるから、帰りも”オートプロテクション”を鍛えさせてもらおうかな」
<承知した。では、行くぞ!>
サージュの言葉にマキナとウルカが声をあげた。学院長先生という戦力も増えて少しテンションが上がっているようだ。
「ゴー!」
「みんな、待っててね!」
俺はオートプロテクションを展開し、再びルツィアール国へと向かった。
◆ ◇ ◆
「せい!」
「たあああ! ……フリューゲル殿、どうです?」
「私は問題ない。だが、姫達とケガをしたベルナ先生がいるあっちは少々厳しいな。王妃の体を人質に取られているような状況も苦しい」
イーグルがロッドを手にしたフリューゲルと背中合わせになって会話をする。まだまだ体力に余力はあるが、打破できる策が無いためこのままではじり貧だと考えていた。フリューゲル達は廊下に出て、こちらへ向かってくるアンデッドを始末する。
部屋にはフレデリックやシーナ、ヴェイグ、グレースと重要人物が揃っているため、ここを食い止める必要があったからだ。
「外の様子も気になりますが……」
「そこは我々が考えても仕方がないさ、この国の問題だ。ただ、死体が死体を呼ぶことは避けて欲しいものだが……な!」
ガシャン! と、ガラスが割れるような音と共にスケルトンの頭が粉々になる。アンデッド退治は専門ではないが、対処は知っているホークとイーグルの二人は難なく倒すことができていた。
「<ファイアボルト>! 城を燃やすわけにはいかんから手加減してやろう」
ゾンビはフリューゲルの魔法で燃やし、騎士ふたりと連携を上手くとる。少しアンデッドの攻撃が緩くなったと思ったその時、通路からローブを着た人物が走ってくるのが見えた。
「ご無事ですか! おお、ここを死守してくれていたとは……」
「あなたは?」
「わたくしはジンガ。ビショップでございます。先ほど報告を受けて幾人かのプリーストと共に騎士達と攻勢に出ています。ですが元凶を討たねば解決はできませんので、恐れながら高位を預からせていただいているわたくしめが馳せ参じたところ」
すみれ色のローブを着た年配の男性が先に十字のついた杖を振りかざしてそう言い、アンデッドが少なくなったのはそのせいかと納得する。
「中にフレデリック王と姫達がおります、ここは引き続き我らが。フリューゲル殿も中へ」
「承知しました、ご武運を。ひとり置いていきましょう」
「任せたぞ、ホーク、イーグル」
ジンガが目配せをし、プリーストがひとりホークとイーグルの下にとどまった。そのままジンガと一緒にルチェラの寝室へ入っていくと、グリエール皇帝を中心に窓側にティグレとジャック、それと意識を取り戻したベルナ。
扉側にフレデリックとヴェイグが前に立ち、その後ろにシーナとグレースが守られるように対峙していた。
「アンデッドが来ないと思ったらお前達のせいか……! ならば風通しを良くしてやろう。<フレイムクラッシュ>」
「ぐ……!」
「ジャック、伏せろ!」
「うわあああ!?」
グリエール皇帝が両手から炎の魔法を繰り出すと、ドゴォオンという轟音と共に扉側とラース達が居た窓ガラス側の壁は粉々に吹き飛んで大穴が開いた。
「さあ、他の騎士には構わず寄ってくるがいい!」
グリエール皇帝はそう言って笑い、魔法はすぐに飛んでこないと判断したジンガはフレデリックの隣へ駆けだす。
「国王様!」
「おお、ジンガか、それにフリューゲル殿も! ジンガよ、ルチェラの中にキバライト帝国の皇帝が憑りついてしまった。あれを引き剥がすことはできぬものか?」
「過去の怨霊となると相当な力を持っているはず……わたし一人でいけるかどうかは……賭けですな」
冷や汗を流すジンガに、ヴェイグとグレースが声をかける。
「それでもいい、どうすれば?」
「足止めならわたくしたちが……! 他国の者にこれ以上頼るわけにはいきません!」
「少なくともわたしめの手が届く範囲にいなければ悪霊払いはできません。まずは動きを封じましょう」
「承知した!」
話を聞いていたティグレも剣を手にヴェイグと同時に駆け出した。
「手伝わせてもらうぜ!」
「助かる! 足を封じれば好き勝手はできまい!」
「チッ <アクアバレット>」
左右からの攻撃を嫌がって下がり、両手から水の弾丸をばらまいて牽制する。だが、ティグレは顔に傷を負いながらも追撃を止めない。
「打撲なら治せるだろ、すまねぇがその腕を封じさせてもらうぜ!」
「うぐ……!?」
「では私は足だな……! 王妃、国王様! 申し訳ありません!」
「しゃらくさい!! <ハイドロストリーム>!」
「うおおお!?」
「くそったれが! まだ余力があんのかよ……!」
右腕はティグレに潰されたものの、左手のみで魔法を使いティグレとヴェイグを吹き飛ばす。
「伊達に皇帝として君臨していたわけではないぞ!」
「なら両手両足を再起不能にしてやらぁ!」
「いいのか? レイナと子供が危ないようだが? くっく……」
「!?」
ティグレが目を向けると、子供たちが奮闘している姿が目に入った。
「く、来るなって! わああああ!」
「あっちいけー! <ファイア>!」
ジャックが窓の外から上がってきたスケルトンを相手に震えながら剣をめちゃくちゃに振っていた。ノーラがゾンビを指から出したファイアで燃やし、デダイトが槍で薙ぎ払い窓から叩き落す。
「ノーラ、右だ! スケルトンは武器を持ってない方からの攻撃は弱いみたいだ、ジャックはそっちを狙って!」
「お、オッケーだぜお兄さん!」
「指からいっぱい<ファイア>! こっち来たらこうなるんだよー!」
デダイトがジャックの隣に立ち、指示を出しながらノーラの魔法を上手く誘導する。ここにきて【カリスマ】のスキルが実戦で使うことになった。そこで膝をついていたベルナが口を開く。
「みんな……わ、わたしの……後ろに……」
「嫌だ! ベルナ先生が回復するまで、お、俺が守るんだ……! あいつらが帰ってくるまで! 痛っ!? やったなこのぉ!」
「サージュならすぐ戻ってくるよー! だからオラ達が守るんだ!」
「ジャック、危ない!」
ジャックが前へ出て突出してしまい、スケルトンが群がってくる。慌てて助けに入ろうとするデダイトだが、ティグレがすぐにジャックの周りにいたスケルトンを粉砕する。
「くそ、早くカタを付けられなかったツケが回ってきちまった……」
「ご、ごめんなさい……わたし達を守りながら戦ったから……」
「うるせえ! お前は黙って回復していろ! ……ビショップのおっさんも手一杯か……どうする……?」
ティグレがどんどん群がってくるゾンビとスケルトンを倒しながら焦りの声を上げる。そこへ、グリエール皇帝が隙を見たと手をかざす。
「まずは忌々しいレイナとテイガーから始末しよう。……さらばだ我が娘よ! <ドラゴニックブレイズ>……!」
「古代魔法だと!? まずい……!」
「うわわ!?」
ティグレは咄嗟に三人の首根っこを掴み、ベルナとジャックに覆いかぶさるようにして庇う体勢に入った。
「ティグレ……!」
「黙ってろ……!」
ぐっと力を入れ、その時を待つ。だが、一向に魔法が飛んでくることなく、恐る恐る振り返ると――
「小僧ぉぉぉ!? お前どこから……!?」
「あちこちに穴が開いていたから、入るのは苦労しなかったよ! ウルカ!」
「うん!」
<間に合ったようだな>
ルチェラに背後から蹴りを入れるラースと、それを追いかけてくるウルカ。そして、窓の外から手を伸ばしてゾンビとスケルトンをなぎ倒すサージュの姿があった。
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