没落貴族の俺がハズレ(?)スキル『超器用貧乏』で大賢者と呼ばれるまで
第八十六話 怨念がそこに
わいわい……
「で、でけぇ……」
「マジでドラゴンだ……」
「こりゃ剣を通すのはきついなあ。団長も斬れなかったんだろ?」
提案により訓練場で夕食を取ることになった俺達。何か手伝わないとと思ったんだけど、お客様だからとやんわり断られた。少し時間が遅くなりつつある時間なのでメイドさんや給仕さん、そして騎士や騎士見習い達も手伝っていた。
「えへん、オラ達の友達なのー!」
「全然怖くないぜ!」
「へえ、偉いね君たち」
ノーラとジャックが、寄ってくる人たちに得意げに話す。するとマキナが嬉しそうに、両拳を握って胸の前に持ってくると熱弁をする。
「でも騎士さんたちも勇敢に立ち向かっていましたから私すごく感動しました! 私もオブリヴィオン学院の聖騎士部にもいるんですよ!」
「へえ、じゃあこの前の練習試合も……」
騎士の一人がそう言うと、当人がやってきて口を開く。
「はん! 俺にボコボコにされたくせによ! 何がドラゴンだ!」
「がるるる……」
「何……? お前、下級生を相手にしたのか? グレトーは何をしていたんだ?」
「あ、そ、それは……」
「あれ? なんでどもってるんだい?」
「う……て、めぇ……」
唸るマキナを俺の背に隠し、これはチャンスだとゴ……なんとかに援護射撃をする。
「練習試合に来た時、ウチの先生が聞いた話だと『実力があまりない子』達を戦わせるつもりだったみたいですけど、蓋を開けてみれば上級生ばかりがメンバーになっていましたよ」
「なに……? そりゃ戦う相手が常に実力が同じってことはないだろうが、そういう約束でそれは酷いな。グレトーを探せ! 問い詰めるぞ! ゴング、お前も来い!」
「ひいい!? す、すみませんー!? くそ、こいつらに関わるとロクなことにならない!?」
自分から突っかかってきたくせに。どうせマキナが可愛いから気を引きたいのだろう。とりあえずあのままグレトーが聖騎士部にいるのはあまり良くないかなと思っていたので、ことが済めば誰かに言うつもりだったんだけど、これは僥倖だった。
「君、すまなかったね。事実関係を明らかにして謝罪に伺うよ」
「あ、ラース君が懲らしめてくれたから私はもういいです! えっと……?」
「ああ、僕はイツアート。あの山にいた騎士団の副団長さ。覚えてないと思うよ、歯が立たなかったんだしね」
はははと気さくに笑う、イツアートさんに、
<我の友達をいじめるやつがいるのか?>
「ああ、大丈夫だよ」
にゅっと顔を出してくるサージュ。俺は鼻先をポンポンと撫でるとマキナとイツアートさんが笑う。
なんでもグレトーはイツアートさんの同期で、騎士団にいたことがあり、技量はあるらしい。
副団長をイツアートさんが就任したら悔しがってやる気を見せなくなり、そのまま退役して学校の先生になったのだとか。
「プライドが高いのが問題でねえ……」
「ああ……」
なんとなくわかるなと思っていると、夕食の準備ができたようだ。イツアートさんの彼女だというメイドさんと一緒に国王様や姫様たちを呼びに行くと俺達の前から立ち去っていく。
「うーん、美味しそうだね。たまには家じゃないところで食べるのもいいね」
「ニーナが文句を言いそうだけどね、うちの料理も美味しいですってさ」
「あなたたち、もう少しだから大人しく待ちましょうね」
「はーい」
俺達は国王様達が早く来ないかなとしばらく待つことにした。あれ? そういえばティグレ先生達がいないけどどこ行ったんだろう?
◆ ◇ ◆
<ルツィアール城内>
「俺達は部屋に居ていいんですかね」
あてがわれた部屋でティグレが椅子を背にフリューゲルへと目を向ける。フリューゲルは一瞬だけ目配せをした後、ティグレへ言う。
「問題ないさ。『外に出ろと』は言われていないからベルナが夕食へ行くまで待たせてもらおう。しかしベルナを教師にしたときはまさかこんなことになるとは思わなかったな」
「姫だったら誰か気づきそうなもんだけどな……」
「ベルナ姫は行方不明というのは周知されていたが、なにせ10年以上も前の話だ。まして森の中に住んでいる女が他国の姫だとは思うまい。お前なら聞いたかもしれないが、彼女は前国王に嫌われていたようでな、公の場に出てくることがなかったから顔を知っているものは少ないのだ」
なるほど、と理由を聞いて納得するティグレにふたりの騎士が話に混ざってくる。
「まだ何かありますでしょうか? ベルナさんは学院に戻ることを決めたみたいですけど」
ホークがそう言い、イーグルが返す。
「それは国王次第だろうな。姫である人間を他国に置いておくなら、自分の国の学院に置きたがるんじゃないのか? ……ティグレが必要ならスカウトもあり得るだろう。【戦鬼】なら国の防衛としても優秀だ」
「よしてくれよ。俺ぁもう戦争には参加するつもりはねぇ。守りたかったのは……そうじゃなかったのさ」
ティグレがそっぽを向いて話を切ったので、その場にいた三人が顔を見合わせて肩を竦める。そこを無理に聞く必要はないと暗黙の了解だ。
「……しかし遅いな、話し込んでいるのか?」
フリューゲルが呟いたその時、それは起きた。
ガシャァァァン!
どこか遠い場所でガラスが割れる音が聞こえてきた。ガタっと椅子を蹴って立ち上がる三人。ホークが口を開く。
「今のは!?」
「奥だ!」
ティグレはすでに扉に手をかけ通路へ出ていた。城内を音の方向と勘を頼りに進んでいくと、副団長のイツアートと遭遇する。
「ティグレ殿!」
「副団長さんか、どこか分かるか?」
「こっちです!」
主語を抜いて尋ねたのに意図が伝わったことをティグレは感心した。奥ということは国王達が居る場所で、本来他国の者が入ることはほとんどない。それでも連れて行こうというのだから、彼も嫌な予感がし、なりふり構ってはいられないのだろうと。
そして階段を上がり、二階へと到着するとちょうどその瞬間、ある部屋からメイド達が飛び出すように出てくるのが見えた。
「あそこか……!」
「メイアはここで彼女たちと逃げて」
「は、はい!」
ティグレとイツアートが部屋に入った瞬間目にした光景は――
「ふは、ふはははは! レイナめ……我が恨みを思い知ったか……!」
「ベルナァァァァ!」
「ティ……グ……」
部屋がめちゃくちゃに荒らされ、ルチェラに首から持ち上げられ、腹をナイフで貫かれたベルナの姿だった。
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