没落貴族の俺がハズレ(?)スキル『超器用貧乏』で大賢者と呼ばれるまで

八神 凪

第六十一話 楽しい学院生活


 ――領主邸の戦いから早二週間が経過していた。俺達アーヴィング一家は領主邸へ戻り、いつもと違う生活を……強いられていた。

 「ラース様、おはようございます」
 「あ、おはよう!」
 「本日は何色の靴下でお出かけになられますか?」
 「あ、うん、なんでもいいけど……」

 さすがにブラオが雇っていたメイドを解雇するわけにもいかず、ニーナ以外のメイドさんも今は居るのである。前の屋敷もそれなりに広かったけど、今は何倍あるかわからない。
 朝もニーナではない別のメイドさんが立っているので、緊張感がすごい。父さんと母さんは慣れているけど、生まれた時から貧乏だった俺と兄さんは居心地があまり良くなかったりする……ま、これもそのうちだろうけどさ。

 「いってきまーす!」
 「いってきます」
 「気を付けるのよー」
 「頑張ってくださいね!」

 父さんは最近朝の食事に顔を出さない。というのもブラオの領主経営が結構ボーダーラインを攻めていたため、回復させなければならないと奮闘しているからだ。
 
 「なあなあでやってたんだろうなあ……」
 「ブラオさん?」
 「そうそう。周りにいい顔したりとか、税金をどうでもいいことに使ったりしてたみたいだよ。兄さんが大きくなったら父さんの手伝いしてあげたらいいんじゃないかな? 俺はこういうの苦手だからさ」
 「はは、ラースなら勉強もお手の物だと思うけど」
 「いやいや、俺は戦闘の方が楽でいいから任せるよ……」
 「……逃げる気だね?」

 俺はぎくりとして駆け出していく。

 「今日はスキルの授業があるから楽しみだなぁ」
 「あ、逃げるなってラース!」

 そのままノーラの待つ分岐路まで走り、合流を果たし三人で学院へと向かう。とまあ、今はこんな感じで穏やかな毎日が続いているから俺としてはかなり満足いっている。

 「おはよー」
 「おはよう、ラース君、ノーラちゃん」
 「お、おはようございますー」
 「おはようラース、ちょっと聞いて行けよ!」

 入り口に近いマキナとクーデリカに挨拶をして席に向かっていると、ジャックに呼び止められる。にやにやした笑顔が秘密をもっているなって感じで微笑ましい。

 「へへ、今日から新しい先生が来るらしいぞ」
 「ああ、今日からなんだ」
 「みたいだねー♪」
 「えー、なんだ知ってるのかよ? 美人な女の先生だって一週間前から噂が立ってたぜ?」

 この件は別に口止めされているわけじゃないけど、言う必要もなかったのでそのままにしておいた。この前の休みにみんなでベルナ先生の家に行ったとき、照れながら実習が始まるというのを聞いていたりする。

 「まあ、いい人だし魔法は本当に教えるのが上手いよ。俺と兄さん、ノーラの先生なんだ」
 「へえ! なら僕も上手くなれるかなあ」
 「……俺も【魔法剣士】だから使えないとまずいんだよなあ……」

 ウルカが自席から俺達に向き、嬉しそうな顔をする。魔法は冒険者志望なら大事だからウルカやクーデリカあたりが嬉しそうだ。

 「楽しみだねー」
 「正直、大丈夫かなって感じはするけどね……」
 「おはよう、ラース君、ノーラちゃん。何の話?」
 「ああ、ルシエールおはよう。新しい先生のことだよ、あ、来たみたいだ」
 
 俺が入り口を促すと、ティグレ先生が入ってくる。それに続いて、見知った顔で、学院の教員服を着たベルナ先生がついてきた。髪を上げていて、母さんから化粧を仕込まれていたので美人顔が映える。

 「あー、今日からこのクラスに副担任として一人先生が配属される。んじゃ挨拶を頼むぜ」
 「わ、分かりました! こほん……え、えっと、ベルナです! 今日から皆さんと一緒にこのクラスで頑張っていきます! よろしくお願いしますね」

 俺達とあったころみたいな喋り方に戻っているけど、表情は明るいのでホッとする。そこへお祭り男ジャックが指笛を吹いて声をあげた。

 「わー! 噂通り美人だぜ! いぇえええ!」
 「よろしくお願いしまーす♪」

 ジャックに続いてヘレナが挨拶をし、その後もみんな歓迎ムードで自己紹介をしていく。今日はスキルの授業と魔法の授業があるからそれを見越して今日からなんだと思う。

 「ふふ」
 「どうしたノーラ?」
 「ベルナ先生、ずっと山の中に住んでいたからみんなと一緒に遊べたらいいのにって思ってたのー。オラ、ベルナ先生好きだから笑っているのを見るとオラも嬉しい!」
 「……確かにそうだな」

 ほわっとしているノーラだけど、何気に両親が居ないので過酷な人生だと思う。兄さんやウチの両親が可愛がっているからそれほど悲壮感はないけど『ひとりでいる』人を見るのがもしかしたら辛いのかもしれないな。
 それにしても今まで自分のことばっかりで後回しにしていたけど、ベルナ先生って何者なんだろう? 魔法の腕は凄いし薬草の知識と栽培は正直、俺の【超器用貧乏】でも何年かかるかわからないほどだ。

 「それじゃ、さっそくスキルの授業からだな! 体操着に着替えてグラウンドへ集合! ベルナ先生も着替えに行かないとだから、俺が案内するぜ」
 「え!? あ、あの、昨日そんなことを言ってなかったじゃないですかぁ! 私持ってきていませんよう」
 「あれ!? ……そうだっけ……?」
 「そうですぅ! ま、まあ、汚しても生活魔法がありますから何とかします。みんな、グラウンドで待ってますね♪」
 「お、俺としたことが……!? うおおお! 他の女教師に借りられるか聞いてくる!」
 「あ、や、やめてください! 絶対変な目で見られますから!」

 ……何気にティグレ先生も謎だよね……【戦鬼】ってなんだろう? スキルかあだ名か……どっちにしても不穏なんだけど……

 俺はやっぱり喧嘩するふたりの先生を見て苦笑しながらそんなことを思うのだった。

 

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