没落貴族の俺がハズレ(?)スキル『超器用貧乏』で大賢者と呼ばれるまで
~幕間 3~ リューゼの考え
ラースの両親が到着する少し前、Aクラスでは――
「でよ、ラースの水魔法がどばって敵に炸裂したわけよ! いやあ、あの魔法は凄かったぜ!」
「……やっぱり、ラース君は強かった……!」
「オラには隠しておけって言うのに、ラース君ずるいなー」
リューゼがクラスメイトを集めてあの夜のことを説明していた。お見舞いには行っていたものの、なぜ大怪我をしていたのかという説明はされていなかったからである。
「アタシの踊りより面白そうだったわけじゃん♪ アタシも見たかったかも? 先生も凄かったんでしょ?」
「ミ、ミズキさんも居たって……!」
「ああ。ギルドの人も手こずる相手だったってのが地味に恐怖だったりするんだけどな……」
リューゼは首筋をさすってから身を震わす。目が覚めた時、ニーナからラースが回復魔法を使っていたという話を聞き、一歩間違えたら死んでいたと言われたからだ。一瞬押し黙ったところへ、ジャックがリューゼの肩に手を乗せてから珍しく真面目な顔で尋ねる。
「でもよ、お前の親父さん牢獄だろ? それに今までの生活も無くなるの、嫌じゃねぇのか?」
「そうですね、僕もそのあたりは気になりました」
「うんうん」
男子達がこぞって顔を近づけると、リューゼは少し考えた後、話しだした。
「……昔から、父上の言うことは絶対って感じだったんだ。だけど、学院に来て、ラースやみんなを見ていると違うなって思い始めていた。蔑んでも相手にされない。むしろ離れていくだろ? そこでティグレ先生が家庭訪問に来て俺を叱ったんだ。あ、俺の違和感はこれかってなった」
「へえ……親父さん怒っただろうに……」
「まあな。でも、俺は俺の考えで行動するように決めるきっかけになったから良かったよ。父上には悪いことをしたけど――」
と、ラースを呼び止めた日のことを思い返す。
◆ ◇ ◆
「ラース!」
「リューゼ……?」
「お前、どうするつもりなんだよ? 父上を追い落とすのか?」
「もちろんだよ。前に言った通り……もし邪魔をするなら――」
ラースは手を掲げ、威嚇をしようと魔法を出す。その時、リューゼが叫んだ。
「……俺に考えがある。父上に近づくには絶好のチャンスだ」
「なんだって……?」
ラースはリューゼの言っている意味が理解できず、ファイアを下げてから訝しむ。リューゼはホッとした表情をし、話を続ける。
「父上がお前の兄ちゃんを殺そうとしたことは俺が証言できる。それに医者のところに薬があるのも見た。黒幕はあの病院の医者……父上も共犯だけど、あの医者はやばい気がする」
「知っているよ、あの場に俺もいたからね」
「……!? ど、どこにいたのかわからねぇが、なら話は早ぇ。お前、どうやって父上を追い落とすつもりなんだ?」
「……国王様が来た時、領主邸に乗り込むつもりだけど」
「だと思ったぜ……。その時、侵入者扱いになったらお前の身も危ねぇ。だから、な? 俺の友達として会食に招待されろ」
「なんだって!?」
ラースが目を見開いて驚いたのを見て、ようやく一泡吹かせられたとほくそ笑むリューゼ。
「これならタイミング次第で全員の耳に入る。そこに俺の証言付き……そして、あの医者も父上の友人として会食の場に集まるんだ、完璧だろ?」
「……はあ」
「な、なんだよ……」
ラースは計画を聞いてあきれたようにため息を吐き、困った顔でリューゼに言う。
「馬鹿だなリューゼ。お前の親を犯罪者に仕立てようとしているんだぞ俺は。それを手伝うっていうのかい? ……これは危ない橋だ、ブラオはともかく、あの医者は本当にやばい気がする。もしかしたら死ぬかもしれないんだ?」
下から見上げるように、迫力のある声でリューゼに問うラース。リューゼはごくりと唾を飲み込んだ後、
「ち、父上は犯罪まがいのことをしているんだ! それに領主ならあんな怪しい奴と手を組むのはダメだろ! だから俺はお前に協力する! 父上は父上、俺は俺だ!」
「……」
ラースはそれを聞いて無言でリューゼに近づいた。
「……っ!」
そして――
「……分かった。その言葉、信じるよ。正直、どうやって領主邸に入るか悩んでいたんだ。方法はあるんだけど、できれば魔力は温存しておきたかったし。会食に呼んでもらえるなら助かる。リューゼはリューゼ。ああ、まったくその通りだ。できれば、ことが終わるまで大人しくしていてほしかったけどさ」
そう言ってスッと握手を求めるラースに、リューゼは笑顔でそれを掴みぶんぶん振る。
「任せろ! あのクソ医者をえらい目にあわせてやるぜ……!」
◆ ◇ ◆
――その時のことを頭に思い描き、クックと笑うリューゼにウルカが言う。
「そう言えばお母さんと暮らすようになるんだよね」
「あ、そうだな。母上……いや、母ちゃんとは初めて会ったけど、そういう感じはしなかったなあ。めちゃくちゃ怒られたけどな……へへ」
「リューゼ君、嬉しそう。今の方が笑顔が多い気がするよ」
クーデリカが微笑み、リューゼがニカっと歯を出して笑う。しかし、そこでヨグスが顎に手を当てて口を開いた。
「……しかし、国王様の目の前でそれだけの大立ち回りをしたら、ラースを欲しがるんじゃないかな? 僕なら十歳で大人と互角に戦えている時点で手元に置いておくと思う」
「あ……」
「え? ラ、ラースくん王都へ行っちゃうのー!?」
「それは……嫌だなあ……」
「ま、まあ、あくまで可能性の話だよ! ……でも、そう言う話があってもおかしくないし、王都で働くチャンスだ。決めるのはラースだけどね」
ヨグスの発言にノーラとルシエールがこの世の終わりみたいな顔をして詰め寄り、ヨグスが眼鏡を直しながら後ずさる。
キーンコーン……
「はい、あなた達おしゃべりはそこまでよ。ティグレ先生はちょっと会議で遅くなるから代わりに進めるわね」
リューゼたちは慌てて自分の席に戻り、代理で来た女性の教師が授業を進める。一方、ラースはと言うと――
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