没落貴族の俺がハズレ(?)スキル『超器用貧乏』で大賢者と呼ばれるまで
~幕間 2~ 全てのピース
「……なあ父上」
「なんだリューゼ? 早く飯を食って勉強をするんだ。お前には私の後を継いでもらわねばならんのだからな」
「その……父上はいつから領主をやってるんだ? 確か、交代の期間とかあるんだよな」
ラースと別れたあと、雨の中とぼとぼと帰宅したリューゼが、食事中にそれとなくブラオに領主のことを尋ねていた。ラースの兄のことは伏せておき、探るように。
「おお、お前もようやく興味が出て来たか! うむ、お前が生まれる二年前だ。ちょうどその時、前の領主が失脚したので私が立候補したというわけだ。この生活ができるのもこの父が努力したからだ」
「……前の領主がラースの父さんだったのは本当?」
するとブラオは目を見開き、顔を真っ赤にして大声をあげる。
「誰から聞いた! ラース……お前と同じクラスにいるローエンの息子か! ふん、ヤツめ……息子には言わないと言っていたのに、結局、子に見栄を張りたいということか? それともまだこだわっているのか。どちらにせよ領主に戻ることなどできはせんのだがな……」
「……どういうことなんだ父上?」
「なに、難しいことじゃない。私が手を入れている町の連中にローエンが売る野菜や薬は安く買い叩いていいと言っているのだ。今の生活が精一杯なら金を貯めることはできないだろう? いくら頑張っても領主になるだけの金額は集まるまい……くくく……」
陰気な笑みを浮かべてそう言うブラオに、リューゼは冷や汗をかく。確かにこんなことを口にする父親なら子供を殺しかけることはあり得るかもしれない、と。
ごくりと唾を飲み込みながら、リューゼはもう一つ、気になっていたことを聞く。
「そ、そうなんだ。は、はは、いい気味だなラースのやつ! もう一つ聞いていいかな?」
「ローエンの息子もお前がしっかり貶めてやれ。金と人は惜しまんぞ? で、なんだ?」
「俺の母上はどうしていないんだ……?」
そう、リューゼには母が居ない。この大きな屋敷には通いのメイドが数人いるだけで、ブラオとほぼ二人暮らしと言っても過言ではないのだ。今までは父親がいればいいと思っていたし、話す気がないなら聞く必要もないと考えていたが、ラースの家族を想う言葉で母親のことが気になってきた。
もし死んだのであれば仕方がないと思っていたが――
「母……ネリネか。いつか話さねばと思っていたが、それが今とはな。学院に通いだしたと考えれば妥当か……お前の母は私を裏切ったのだ。だからこの町から追放した」
「……!?」
ブラオが眉間にしわを寄せてから驚くべき告白をし、リューゼがフォークを取り落とした。ブラオは忌々しいとばかりに拳をテーブルに叩きつけてから誰にともなく怒声を浴びせる。
「領主になったのは誰のためだと思っている! 生まれてくるリューゼとネリネのためだ! それをローエンの息子を殺しかけたくら……いや、なんでもない……」
「(……やっぱり父上が!)」」
流石に今のを聞き逃せるほどリューゼの耳は遠くない。ラースの言ったことが嘘でなかったことをブラオ自ら証明する形になり、リューゼはがくがくと震えるのが分かった。
「お前は何も聞かなかった。いいな?」
「ち、父上はどうしてそうまでして領主になりたかったんだ……! こんなことがあったなんて友達に知られたら俺、みんなに嫌われちゃうよ! 人殺しの息子だなんて! うあ!?」
リューゼがまくし立ててそう言うと、ブラオがリューゼの頬を拳で殴りつけ椅子から転げ落ちる。ブラオは助けるそぶりも見せず激昂した。
「誰が殺しか! 長男は生きているだろうが! それに友達だと? お前に必要なものは手足になる取り巻きだ、友達なぞ必要ない!」
「いってぇ……! ……ラースの言う通り、結果的に兄ちゃんは生きているだけだろ! 死んでもいいと思ってたんだろうが!」
「……くく、その通りだ、ローエンの……いや、待て、今、お前なんと言った?」
リューゼは先ほどの言葉を思い出し口に手を当てて尻もちをついたまま後ずさる。ブラオはその様子に目を細めしばらく考えた後、口を開く。
「いや、気のせいか。済まなかったなリューゼ、殴りつけたりして。ネリネの……母のことは忘れるんだ。なに、再婚して新しい母親を見つけてやるからな」
「……」
にっこりと笑ってリューゼの頭を撫で、傷の手当てをするためメイドを呼ぶブラオ。リューゼは聞こえていなかったと安堵し、部屋へと戻るが、先ほどと同じく、ブラオが聞こえていないはずはなかった。
「(未遂とはいえこれが知られるのはまずいか。しかしローエンの息子はどうやって知ったのだ? 毒殺を仕掛けたことを知るのは私とニーナ……後は『先生』だけ。ニ-ナへの口止めはごろつきを雇って家を監視させているから母親に危害が加えられまいと漏らすまい。……まさか計画を考えた『先生』が漏らすとは思えないが、今後のことの相談も踏まえて一度話をしておくか……)」
ブラオは窓の外の雨を睨みつけるようにしながら、胸中でそんなことを考えていた。
◆ ◇ ◆
時は少し戻り、屋上での出来事――
「それはリューゼ、お前の父親が兄さんに毒を盛って殺そうとしたからだ。治療費を払う羽目になったのも、払ってお金が無くなって領主を降ろされたのも、全てブラオがやったことで起きた――」
ラースとリューゼが屋上で話していたのを聞いていた人物が、いた。
「……う、嘘……デダイト君が殺されそうだったなんて……」
「な、何あれ!? お姉ちゃん、ラース君の魔法……!」
「……!? あれが<ファイア>!? あんなの魔法系のスキルを持っている人でもできないわよ……! 魔法をその場に保たせること自体難しいのに……あ、あんな大きいの……!」
聞いていたのはルシエラとルシエールの姉妹だった。珍しく兄のデダイトとノーラと一緒に帰らず、昼間リューゼとやり合っていたのを見て心配していたルシエールがラースを追って屋上に来ていたのだ。
「お姉ちゃん、お父さんに言った方がいいかな……」
「……難しいわね。デダイト君達兄弟をお父さんは快く思っていないのはこの前ギルドに行かせてくれなかったことで分かったし。しばらく様子見よ、私はデダイト君を、あんたはラース君を注意して見ておきなさい」
「わ、わかった! あ、こっちに来るよ!」
「今日は帰りましょう。雨も降ってきたし」
ルシエラがそう言って、ラースが来る前にサッと移動し家へと戻るのであった――
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