没落貴族の俺がハズレ(?)スキル『超器用貧乏』で大賢者と呼ばれるまで

八神 凪

第三十八話 ギルドの刺客達とクーデリカ


 そんなこんなでギルドへと向かうのは俺と兄さんにノーラとルシエール。とりあえずルシエラが許可を取ってこれなかったら帰る予定で、今はギルドの前で待ちぼうけ中である。

 「ここがギルド……」
 「おっきいねー」

 緊張な面持ちのルシエールとのんきなノーラが建物を見上げて対照的なことを言っていた。そろそろかなと思っていると、普段着に着替えたクーデリカが走ってくるのが見えた。

 「み、みんなーお待たせっ! ふうー」
 「クーちゃんどうだった?」
 
 どちらかと言えば仲がいいノーラがクーデリカに尋ねると、にこっと笑って返す。

 「ギルドに出入りしている子がラース君ならいいって言われたよ! ウチのお父さん、ラース君のこと知ってたみたい」
 「え!? ……だ、誰だろう……」

 クーデリカから急に自分の名前が出たことに驚き動揺する。まあ、ギルドに出入りするのは俺だけってわけでもないしと思い直しルシエラを待つ。クーデリカが来てから二、三分ほどしてから、完全に絶望した顔の彼女がふらりと現れた。

 「ど、どうしたのお姉ちゃん!? お気に入りの靴を履いてどぶに落ちた時みたいな顔になってるよ!?」
 「ダメだった……お父さんにめちゃくちゃ怒られた……」
 「やっぱりルシエラでも女の子にはまだ早いって思われたかな?」

 兄さんがそう言うと、ルシエラが首を振って答える。

 「違う……誰と一緒か聞かれたからデダイト君とラース君の名前を出した瞬間にダメだって……」
 「そういえばお父さん、お姉ちゃんがデダイト君の話をすると不機嫌になるよね」
 「へえ、兄さんの話をするんだ?」
 「い、今は関係ないでしょ!! こうなったら強行よ!」
 「それはダメだよ。何でルシエラのお父さんが不機嫌になるか分からないけど、勝手についてきたら僕達はもっと嫌われそうだし、ラースの為にもここは帰ってほしいかな?」

 拳を握るルシエラに正論で、しかも真面目な顔で言う兄さん。俺や両親、ノーラに不利がある状況になる、もしくはなりそうな場面での兄さんは怖いのだ。俺のためというのはどういうことなのかよくわからなかったけど。
 するとルシエラはぐっと泣きそうな顔になり、俺と兄さん、ノーラの顔を見た後ルシエールを引っ張っていく。

 「あ、ちょっとお姉ちゃん自分で歩くよ! ごめんねラース君、また明日!」
 「気を付けてね!」
 「デダイト君とラース君優しいのに、なんで嫌われてるんだろうねー……」
 「そうだね……」

 ノーラが悲しそうな顔をして兄さんがぎゅっと手を握る。一定の人間は父さんのことを良く思っていない人がいることを二人は知らないから仕方がない。

 ――いや、待てよ? 避けられている理由は良く知らないなそう言えば……。
 ブラオの取り巻きが少し居たことがあったけど、あれはああいうものだと思える。金か何かで雇われているとかね。
 だけど、ルシエールの父親が避ける理由はなんだろう? 大きめの商家だと言っていたのだから、脅迫されていたとしても別の町に引っ越せばいいのだ。
 これからは父さんのことを聞いてみるべきかと思案したところで、クーデリカに声をかけられる。

 「ね、ね、早く入ろう!」
 「あ、そうだね。行こうか」
 「やったぁ!」

 心底嬉しそうに飛び上がってよろこぶクーデリカを後ろにして、俺はギルドへと入って行く。受付のギブソンさんが微笑みながら手をあげる。

 「やあ、ラース君、昨日はありがとう。またギルドマスターは出張に行っちゃったからタイミングが良かったよ」
 「こんにちはギブソンさん! それは良かったです。それで、今日はちょっと言いにくいことが……」
 「ん? なんだい? お、後ろにいるのはお友達かい?」
 「あ、はい。クラスメイトのクーデリカと、兄のデダイト。それと幼馴染のノーラです」

 俺が一歩横へずれて紹介すると、目をキラキラさせているクーデリカが俺とギブソンさんを交互に見ながら口を開く。

 「凄い、本当なんだ! いいなあ……あ、わ、わたしクーデリカです。よろしくお願いします!」
 「ノーラですー!」
 「いつもラースがお世話になっています。兄のデダイトです」
 「ははは、みんな礼儀正しいね! 僕はギブソンだよ、受付を主にやっている。よろしくね。今日はどうしたの?」

 ギブソンさんが不思議そうに尋ねて来たので俺はかいつまんで話す。

 「なるほど、まあラース君は雑務とはいえ一年以上依頼をやっているからついてくるのはいいと思うよ。ギルドは誰でも入れるんだけどね」
 「そ、そうなんだ。お父さんは大きくなってからって言ってたのに……」
 「それは心配だからだよ。本来ならまだ九歳だったラース君に依頼は頼まないよ。親から色々と学ぶ方が大事だからね」

 ギブソンさんはそう言って笑う。この人優しいからそれくらいは考えていそうだ。他の冒険者からも信頼は厚いのだ。

 「えっと、それじゃラース君はどうして……?」
 「ああ、まきわ――」
 「ああああ! ギブソンさん依頼、依頼をするよ!」
 「え? そうだね、いつものお婆さんから壁の塗装を手伝って欲しいって」
 「それ、やる!」

 危ない……迂闊に俺の話にするのは良くない……さっさと依頼をして、クーデリカ達には満足してもらおうと依頼を受領する。俺の隣でカードのやりとりを興味深そうに見るノーラとクーデリカ。
 すると第二の刺客がギルドへ入ってくる。

 「おお! ラース君じゃないか、今日もかわい……元気そうだ、な!?」
 「あ、ミズキさん。依頼から帰ってきたの?」
 「はわわわ……ミ、ミズキしゃんだ!」
 
 そういえばクーデリカはミズキさんを目標にしていたっけ。ところでミズキさんの様子がおかしいような……?

 「ラース君が女の子を二人も!? ど、どっちだ、どっちが彼女なんだ!?」
 「あはは、俺に彼女はいないよミズキさん。こっちのノーラは兄さんの彼女だけど、クーデリカはただのクラスメイトだからね」
 
 俺がそう言うと、ミズキさんはきょとんとした顔のあとに一息吐いて口を開く。

 「そ、そうか。ラース君はイケメンだし好きになる娘は多そうだから私はそう思ったよ」
 「まだそんな気はないですよ?」

 しかしノーラを兄さんに持っていかれた悔しさは忘れていないけど。

 「しかし、魔法でそらをと――」
 「わー! わー!」
 「どうしたのラース君!?」
 「今日は騒がしいねラース?」

 そう言われてもギブソンさんとクーデリカの前でそれはまずい。兄さんとノーラは知っているからいいけど、特に子供のクーデリカは誰かに喋ってしまいそうなので俺は慌ててミズキさんの言葉をさえぎってみんなに言う。

 「それじゃ行こうか! ここからそんなに遠くないし、お婆さんも優しいからみんな行っても大丈夫だと思う」
 「あ、いいのー?」
 「わ、わたしミズキさんとお話を……」
 「また来ればいいよ! 行ってきますー!」
 「気をつけてね」

 苦笑するギブソンさんの声を後に、俺達は依頼へ向かった。なれた道なので、おばあさんの家にはすぐ到着し声をかける。

 「こんにちはー」
 「あら、今日はお友達もいるのね。おじいさんと二人だけだから嬉しいわね」
 「ばあさんや、茶菓子と果汁のジュースを出してやれ! ラース、こっちじゃ!」

 そういってほほ笑む俺達を庭に案内してくれ、さっそく作業に取り掛かる。といってもおおむねおじいさんが色々用意してくれ、メインはおじいさんが作業をするので本当に補佐くらいの役割なんだよね。
 三十分くらいで陽の当たる壁が真っ白な綺麗な壁になった。

 「おいしー」
 「ありがとうございます」
 「結構地味なのね」
 「雑務依頼だからこういうもんだよ。クーデリカはやっぱり魔物退治とか?」
 「う、うん【金剛力】はやっぱりそういうものかって思うんだけど」
 「そうでもないよ? えっと……あれなんかどうかな? あの石、本当は土台の上に乗っていたんだけど、崩れちゃったんだって。俺じゃ持てないんだけど、クーデリカなら持てるんじゃない?」
 
 俺が指さした先には灯篭のようなオブジェがあり、地震か何かの後崩れたらしい。特に困らないからと放置していたやつである。

 「スキルを使って……はい!」
 「おー」
 「クーちゃんすごーい!」

 クーデリカはあっさりと石を持ち上げて台座に乗せた。ちなみに俺には本当に動かせなかったので、これは凄い。……魔法ならいけるかもしれないけど。

 「お嬢ちゃん凄いのう!」
 「あ、えへへ」

 おじいさんに撫でられ顔を赤くする彼女に俺は笑いながら声をかける。

 「ほら、役に立っただろ? 色々できることはあるから慌てないで試してみようよ」
 「うん! ありがとうラース君!」

 依頼を終え、俺達はノーラとクーデリカを家に送った後、兄さんと自宅へ帰るため丘を歩く。今までひとりでやってたからちょっと新鮮だったなと思っていると、背後から視線を感じ振り返る。

 「ん?」

 ガサ……

 「どうしたんだいラース?」
 「いや、何か見られていたような……」
 「誰もいないよ?」
 「うーん、ま、いいか。怪しい人だったら倒せばいいし」
 「僕とラースなら勝てそうだよね」

 そう言って笑いながら玄関を開けるのだった。


 「……」


 

 

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