没落貴族の俺がハズレ(?)スキル『超器用貧乏』で大賢者と呼ばれるまで

八神 凪

第三十七話 二日目から忙しい


 カーン……カーン……

 「起立、礼!」
 「うおおおお!」
 「ホットドッグゥゥゥ!!」

 今日も元気にダッシュで昼ご飯を求めてマキナ、ジャック、リューゼがあわただしく出ていく。

 「来たよラース、ノーラ」
 「あ、兄さん」
 「私もいるわよ!」
 「ごはん食べようー」
 「私もいいかな?」
 「もちろんー♪ ウルカ君借りるねー」
 「いいよ、僕は庭に行くからね」

 いつもの困り笑いをしながら手を振ってクラスを出ていくウルカを見送り席をくっつけて弁当を広げる。今日はルシエラは来ないようで平和なお昼――

 「来たわよ! デンジャラスホットドッグを買ってきたら遅くなっちゃった」
 
 ――と思っていたけど、そんなことはなかった。まあ、妹がいるから仕方ないとは思うけどね。

 「お姉ちゃんお弁当は?」
 「二時間目の終わりに食べたわよ?」
 「ええー……太るよ?」
 「大丈夫、その分体を動かすから。お昼のあとは運動の授業よ」

 運動の授業とはいわゆる体育のことらしい。食べた後に運動はきついと思うのだけど、この姉はそんなことはないらしい。そうしていると、もう一人、似たような女の子が帰ってくる。

 「ふう、今日は辛い方だけだったわ……」
 「お、俺は甘い方だけ……」
 「くそぉぉぉぉ……ジャック、分けてくれ……クルミパンだけなんて嫌だ……」

 どうやらリューゼだけ負けたらしい。というか金持ちのわりに昨日と今日はパンだなあいつ。そう思っていると、ジャックもそう感じたらしくパンを齧りながら言う。

 「リューゼって領主の息子だっていつも言ってるじゃん。でもなんでお昼はパンなんだ? 豪華な弁当とか持ってきそうだと思ったんだけど」
 「そうね。貴族はだいたい持参のお弁当か学食だし、珍しいわね」

 するとリューゼはクルミパンを口に入れながら憮然とした表情で言う。

 「うるさいな! お前らみたいなへいみ……あ、いや、なんでもない……事情があるんだよ……」
 「?」
 「?」

 そうぼつりと呟き、リューゼはクルミパン一個と牛乳という寂しい昼食を終えていた。何か言いかけていたなと思ったけど、こちらの会話が盛り上がってきたので意識を戻した。
 
 そして午後。
 昼休みの時間、以降、リューゼの視線をよく感じた。
 俺はノーラやルシエール、たまに近くのウルカやヘレナと会話をし、少しずつクラスメイトと話をする機会が増えてきたが、リューゼはジャックとはよく話すも、他のクラスメイトとはそれほど関わっているようには見えない。
 まだ二日目だからこんなものだと思うけど、俺に突っかかってこないのが少々気になるところだけど、まあ貧乏人とガタガタ言われるのも面倒なので気持ち的に楽だ。
 家庭訪問があったみたいだけど、先生がリューゼに何を言ったのかが気になるけどね。
 
 今日は結局リューゼに絡まれることなく二日目も終わり放課後になった。俺が伸びをしていると、ルシエールが声をかけてくれる。

 「今日もギルドへ行くの?」
 「そうだね。もう習慣になっているし、昨日はギルドマスターと話をしてておばあちゃんの家に行けなかったから行こうかなって」
 「え!?」
 「そ、それ本当です!?」
 「うわ!? びっくりした!?」

 驚くルシエールの後ろからひょこっとクーデリカが出てきて俺もびっくりする。ノーラがくすくすと笑っているとクーデリカと、どうやら傍で聞いていたウルカが興奮気味に口を開く。

 「ギルドマスターってなかなか話す機会なんてないんだよ!? ちょっと挨拶するくらいはあるかもしれないけど、ちゃんとお話ししたの!?」
 「う、うん、いつも忙しいからってお父さんが言ってた……」
 「あ、いや、父さんの昔からの知り合いみたいで、会いたかったって……」
 「向こうから!? いいなあ……一人で盗賊団を壊滅させた強い人なんだよね」

 ウルカが憧れのまなざしで呟く。どうやらウルカは強い男にあこがれているみたいだね。そうこうしていると、兄さんとルシエラがクラスにやってくる。

 「帰ろうかノーラ」
 「あ、デダイト君、いいよー」
 「今日こそギルドへ行くわよ!」

 なぜかルシエラが意気揚々と俺の手を掴みそんなことを言う。だけど、視線は兄さんに……? 俺はため息を吐き、次に言われたら返す言葉を告げてやる。

 「……別についてきてもいいけど、ギルドの中へ入った後は責任持たないよ? 結構怖い人もいるし、ルシエラは女の子だし」
 「う……」

 そこで呻くルシエラ。やはり女の子らしく怖い人というワードには少々怯むらしい。

 「そうだよ、お姉ちゃん。ラース君も困るだろうしそれはやめようよ」
 「ほら、ルシエールもこう言っているし大人しく家の手伝いをしなよ」
 「ぶー……」
 
 分かりやすく頬を膨らますものの、あきらめたようで俺の手を離す。だがその時、別の方向から手を掴まれる。

 「あ、あの、わたしを連れて行ってほしいかも! 将来は冒険者だからギルドに行ってみたい!」
 
 なんとそう言ったのはクーデリカだった。

 「ええ!? い、今も言ったけど怖い人がいるよ?」
 「大丈夫! いつかギルドに行くんだから今でも一緒だよ!」

 ルシエラと違い意外と肝が据わっているな……と、感心する。俺はもう一度だけ確認をするようにクーデリカへ告げる。

 「本当に責任は取らないよ? もし行くならお父さんとかに許可を貰ってくれた方が助かるかな」
 「だったらいいの? じゃあ、行ってくる!」
 「あ、先に行ってるからね!」

 クーデリカが昨日の体力測定よりも素早い動きでクラスから飛び出していく。そこまで行きたかったのかと苦笑していると、

 「私も……」
 「ん?」
 「私も行く……クーちゃんが行くならわ、私も!」
 「ええ!? ルシエールが!?」
 
 真剣な顔でこくこく頷く姿が可愛い。そこでルシエラが腕組みをし、俺の肩を叩く。

 「なら私も行かないとね! 妹だけ危険な場所へ行かせるわけにはいかないもん!」
 「お前もかよ……」
 
 口実が出来たと喜ぶが、先ほどの怖い人宣言のせいか足が震えているルシエラ。すると、兄さんがにこにこしながら言う。

 「じゃあ僕も行くよ。一回ラースが働いているのを見てみたかったし」
 「オラも行くー」
 「ええー……まあ、兄さんたちなら邪魔しないだろうからいいけど」
 「私は邪魔するって言いたいの!?」
 「「「うん」」」

 俺と兄さん、そしてルシエールがハモると、ルシエラが悔しそうな声をあげながら許可を取ってくると逃げるようにクラスから出ていく。

 「それじゃ、先に行こうか……ギブソンさん驚くだろうなあ」
 「僕は用事があるから今度連れて行ってよ! またねー」

 そう言ってウルカは帰宅し、見ればリューゼ以外は全員クラスから居なくなっていた。

 「……」
 「……それじゃ行こうか、みんな」

 頬杖をついて俺の方を見ていたリューゼに気づいていたけど、俺は気づかないふりをして兄さんたちとクラスを出た。 

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