没落貴族の俺がハズレ(?)スキル『超器用貧乏』で大賢者と呼ばれるまで
第二十六話 親子ともども
「行こうかみんな」
俺は笑顔で父さんたちに声をかけてスタスタと歩きだす。こんなのにかまっている暇はないし、ことを荒立てるのは得策ではないと移動をしようとする。
「無視するんじゃねぇよ! ははあ、俺の【魔法剣士】のスキルにびびってんのか? 素直に言うこと聞いてりゃ子分にしてやってもいいぜ?」
「間に合ってます」
「なにがだよ!? チッ、面白くねぇ……お、可愛いなお前。俺の彼女になれよ。ラースと違って俺は金があるぜ?」
「わわ!?」
まったく興味を示さない俺に苛立ちながら、今度はノーラにちょっかいをかける。まったく、親が親なら子も子だな……俺はリューゼに言ってやろうと振り返ると――
「いででで!?」
「ノーラは僕の彼女なんだけど、触らないでくれるかな……?」
凄い笑顔の兄さんがすでに対応していた。
「わ、わかった……分かったから手を離せ貧乏人が! ……ふーふー……なんなんだこいつら! 親父、行こうぜ! 相手にしているとこっちも貧乏くさくなる」
「そうだな。ローエンよ、長男はそこそこできるようだが、次男はリューゼと同じ歳で残念だったなあ。ハズレスキルではロクに成長も期待できんだろうな。はっはっは!」
そう言ってブラオ達はこの場を去る。だが俺はちゃんと見ていた。兄ちゃんに捻じりあげられた腕が赤くなっていたのを……
「大丈夫、ノーラ?」
「うんー! ちょっと肩に手を乗せられただけだからー」
そう、たったそれだけだったのに全力で握り潰そうとした兄さんが恐ろしい……。ノーラに手を出すとああなるのかと俺は冷や汗を流す。
「ケチがついたわね。同じクラスじゃないといいけど」
「それではわたしとベルナさんは戻りますね。ラース様、頑張ってください!」
「がんばってねぇ! 本気を出したらダメよー? その時が来るまで、ね」
「ありがとうニーナ、それはわかっているよベルナ先生。それじゃ、行こうか」
「僕はクラスに戻らないといけないからここまでだね。ノーラを頼むよラース」
「あ、うん」
なんとなく背中に冷や汗がぶわっと噴き出しつつ、俺はクラス割りの掲示板を見に行く。すでにほとんど見たらしくまばらになった人をかき分けて掲示板を見る。
「あ、ラース君と同じAクラスー」
「本当だ、知り合いがいるのは嬉しいな」
「うんー! それとさっきのルシエールって子もだし、リューゼ君もだね」
「……なんと……」
なんとなーくそんな予感がしていたのでそれほどショックではないけど、リューゼは少々面倒だな、と思う。
ま、突っかかってきても無視していればそのうち飽きるだろう。そう決意し、俺達はAクラスへと入って行く。
「……」
「……」
クラスに入ると、視線が俺達に集まる。少し広めの教室に机が十席。そして親が後ろに立っており、視線が集まったのは俺達が最後だからのようだった。
「ふん、貧乏人は時間も守れないのか?」
「いやあ、申し訳ないね」
父さんがやんわりと頭を下げると、ブラオ以外はまあまあ、とか愛想笑いで返してくれる。両親が揃っているのは割と少ないかな。あ、ルシエールの親父さんもいるね。
「ラース君、ノーラちゃんこっちこっち」
「あ、ルシエールちゃんー」
「ここ、空いてるのかい」
「うん。ふたりの名前があったからとっておいたよ!」
ふふん、とドヤ顔をするルシエール。口調は柔らかいけど、やはり姉妹なんだなと苦笑する。席に着いたところで前に立っていた先生がコホンと咳ばらいをして口を開いた。あれ? あの人って――
「全員揃ったな。まずは自己紹介をさせてもらおう。俺……私はティグレ。このクラスの担任として一年間Aクラスのみんなの勉強を教えることになる。よろしくな」
と、口元をにやりと曲げる目つきが鋭い男教師ティグレ。あー、思い出した。この人って前に兄ちゃんの担任だった人じゃないか。目つきが鋭すぎて、数人の女の子がちょっと涙ぐんでいた。
そんなティグレ先生が話を続ける。
「クラスはA~Eで、各クラス十人ずつ居る。自分のクラスでなくとも仲良くするようにな」
「ふん、領主の息子である俺が平民と友達とかないな」
「リューゼ君、学院長が言っていたようにこの学院内では貴族も平民も関係ない。例え王族でもな。そんな態度では学院生活が辛くなるから早々に捨てておきなさい」
「な……!?」
あまりにもハッキリとリューゼに淡々と告げるティグレ先生。親で領主のブラオが居る前でこの発言をこの人は信用できそうだと直感する。もちろん面白くないのはブラオだけども、
「学院の教師がよくも私の前でそんな口を叩いたな……! 担任を変え――」
パキパキ……
「先ほど息子さんに申し上げましたが、ここでは権力を行使してはいけません。親御さんのあなたなら猶更です。これは王都の教育委員会にも認定されていますので、不満があれば国王に進言してください」
「う……国王はまずい……」
ティグレ先生はさっき兄さんが見せた怖い笑顔で右手の指を片手でポキポキ鳴らしながら注意をしていた。ああ、影響されちゃったかな? ブラオは眉をぴくぴくさせながら引き下がると、次の話へ移る。
そんな中、俺は別のことを考えていた。
「(学院内の権力行使はご法度、ね。そういえば兄さんの入学式の時にも学院長が言っていた気がする。使えるかな……?)」
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