少年と執事とお手伝いさんと。〜全ては時の運〜

ノベルバユーザー458883

184話 思い出す温かさ。

 食事の準備も終わり、サリエルさんを待って空を見ていた。


―バサッ。


「いい匂いがしますね。」
「サリエルさん。おかえりなさい。」
「おかえり……この場合はただいまと言えばいいのですか?」
「はい。おかえりなさい。」
「ただいま……ふふ。」


 帰って来たサリエルさんは少し嬉しそうに笑う。


「どうかしましたか?」
「いえ。この言葉を何年振りに言ったかしらって思って。」
「え?ずっとここにいるんですか?」
「そうね。帰る場所もありませんし。何処かへ行こうとも思わないから。」
「それって寂しく無いですか?」
「寂しい?」


 考え込むサリエルさん。


「こうして話すのも100年振りくらいだし。守護の役目もありますから、そう考えた事もありませんね。」
「そうなんだ。」


 ジルは30年前に勇者が来たと言ってたなぁ。寿命が長いとそんな感覚になるのだろうか?今は実家に帰ってるけど。
 あれ?フェンスさんはお城で見たな。ここに残らなきゃいけない理由ってあるのかな?


「ささ、ご飯もちょうど出来たし。食べちゃいましょう。サリエルさんは食べれない物ありますか?」
「ん?基本的には無いですが。」
「それじゃ……どうぞ。ボタン鍋って言う料理です。」


 皆んなで食べるならやっぱり鍋だよね。森で食材もあるし、何より母さんの料理は美味しい。


「見た事ない料理ですね。」
「こうやって食べるんですよ。」


 スープをすすり、箸で摘んで食べる。実際に食べているところを見てもらった。


「成る程。ずずっ……美味しい。」
「でしょ?」
「はむ。はふ。この食材も美味しいわ。」
「沢山あるのでどんどん食べて下さい。」
「ええ。ありがとう。ご馳走になるわ。」




 結構作ってもらった食事もあっという間になくなる。


「食事と言うものがこんなに美味しく楽しい物とは思いませんでした。」
『我もそう思う。龍族は生でかぶりつくしかないからな。』
「私は食べずとも、大気中のマナさえ摂取出来れば良いですから。」
「同じ生きてるでも種族で違うんだね。魔族は?」
「僕らは普通に食事しますよ。エイリさんの料理は別次元の美味しさがありますが。」


 別次元の美味しさ……まぁ確かに別次元ではあるけど。


「別次元って。この場合人族って言うのかな?宿舎とかギルドでも同じ様な食事はあったよ。」
「そうなんですか。今回はすぐ出てしまったけど、いつか言ってみたいですね。」


 母さんの言う通り、宿舎やおじさん達の屋敷では普通に食事していたな。魔界だと豪華な食事はあったけど、庶民的と言うか家庭的な料理は無かったな。マレット君も魔王様の子だし、食べた事がないのかもしれない。今回は事情もあるからすぐ旅だったけど、マレット君を連れてまた行けばいい。


「……。」
「そうだ。サリエルさんも生きませんか?」
「え?私ですか?」
「そうですよ。ここの守護って仕事があるのも分かりますが、たまには息抜きも必要ですよ。」
「息抜き……そう言うもの?」


 困惑するサリエルさん。ちょっと無理矢理だったかな?


「ジルもフェンスも外出してるし、縛りはそんな厳しくないと思うんだ。」
「ジル?フェンスは北門の?」
「そう。フェンスは北門に居たマレット君やナイトのお母さんで魔神かな。ジルはジルフォレス・ガーラって龍神。」
「北門の守護者の子……。それに龍神に名があったのですね。」
「ジルは今実家に帰ってるし。フェンスも魔界で見たし。」
「それで南門が誰もいなかったのですね。」


 難しい顔で考え込んでしまった。あれ?もしかしてこれ言っちゃいけなかった?


「これ言っちゃいけなかった?」
「どうだろう。母上が守護者とか僕は初めて知ったし。」
「私も知らなかったわ。言うなとも言ってないし、良いんじゃないかしら?」
『我々は龍神様の意向であれば、我らが言う事は何も無いぞ。』


 マレット君もナイトも問題ないっぽい。リナに関しては龍神だしって感じだ。


「天使族ってなんか一番上?みたいな役割あるの?」
「役割で行けば神がお一人。後は私を入れて4天使は同格ですかね。」
「後3人ってどんな天使?」
「ラファエルとガブリエルにミカエルです。ミカエルは先程言った門を抜けてすぐにいます。」
「ミカエルってサリエルさんと同格なの?」
「そうですね。まぁ転生したばかりで、まだ齢100と少しで若いですが。」


 100歳で若いって言うの?そう言えばサリエルさんが教会を任せたとか言ってたな。そうなるとサリエルさんより下なのか。


「ラファエルは各地で薬を売っているはず。ただ釣り好きで、色々動き回りますから。海や湖といた所を探せば見つかるかと。」
「釣り好きの天使様……。」
「ガブリエルは何処にいるか分からないわ。神様のお付きでいろいろやっているみたい。」
「秘書と言うか執事みたいな感じかな?」
「身の回りのお世話をしている点では、執事って方がしっくり来るわね。」


 神様に4人の大天使が天使族の上の方か。神様ってどんな人だろう。


「その神様って会えるの?」
「ん〜世界を支えるお方だからね。世界を維持するのに何か問題とかあれば……。」
「そんなの怖いな。でも逆に考えると、この状況はまだ大丈夫って事かな。」
「下界に住む者の問題ですからね。」


 神様ってそんなもんだよね。僕のいた世界でも神社や教会はあるけど、見たって人は本やごく一部の人だし。実際いるのが怪しいくらいだけど。


「下界に住む者か……そしたら僕らがやる事かな。さて明日からどうなるか分からないし、今日はもう休もうか。いいかなサリエルさん。」
「ええ。構いません。」
「僕らが門を出て、色々やってまた戻ってくるから。そしたらサリエルの答えを聞かせてよ。」
「え?」
「僕らと世界を一緒に回るか。ちょっとした息抜きに出掛けてもいいかなってあればね。」
「……はい。考えておきましょう。」


 微笑んでいる顔は少し赤く照れた感じにも見える。突然だったし、無理に誘い続けるのもなんか違うと思ったし。これで話を切り上げる。


 明日からどうなる事か。サリエルさんと戦闘にならなかったし、しっかり話し合い出来ればいいな。

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