少年と執事とお手伝いさんと。〜全ては時の運〜

ノベルバユーザー458883

112話 振り回す人①

「ふぅ…。」


私はクランでの収支の計算をしている。
主には依頼の報酬、クランの活動費や要望等。


―コンコン。


「はい。」
「レイラン様、お疲れ様です。飲み物持って参りました。」
「ありがとう、入って。」
「失礼致します。」


この屋敷のメイドであり、第8席でもあるヤヤが入ってくる。
手際よく暖かい紅茶を入れてくれる。


「何かお手伝いありますか?」
「今はあらかた片付いているので、大丈夫よ。」


紅茶を貰い一息いれる。


「……今日はやけに静かね。」
「現在はレイランさんと私しか屋敷におりませんので。」
「マスターは武器屋?」
「はい。スタン様とお出掛けされてます。」


武器が折れてソラヤさん達と武器屋に言った後から、スタンを連れて武器屋に行くことが多くなった。
1から作り直すって言っていたけど、一体何を作るのか…。


「後はピィアスとダブルは東の依頼で、ピースはどこに?」
「ココが買い出しに行くので、荷物持ちをして頂いてます。」
「そう……。」


副団長としては、皆んなの動きを把握しておかなけばいけないと思う。
だけど、書類が多い時はこうしてヤヤに聞く。
なんだかんだで、皆んな出かける時はヤヤに声をかける習性が付いている。
私もヤヤに任せて外に出る事もある。
そういう意味では、クランのお母さん的立ち位置なのかもしれない。


「そう言えば、ここ最近彼らを見ませんね。」
「ソラヤ様でしょうか?」
「西の谷で狩りをするとか言っていた気がするんだけど?」
「はい。今もいらっしゃるみたいです。」
「そう………。」


お母さんのワードから、エイリさんを思い出してヤヤに聞いてみた。
西の谷で狩りってどうなのかしら?鳥類の魔物が多いって記録はあったけど。
今もいるのね、だからか屋敷がいつも以上に静かなのは…。


「……。」
「どうしたのヤヤ?」
「門の方に気配が…立ち止まってはウロウロと不自然な動きなので。」
「今日はお客様が来る予定はないのだけど。いいわ、見に行きましょう。」
「それにであれば、私1人でも。」
「いいのよ。少し歩きたいの。」


自室に篭ってばかりだと息も詰まるし、息抜きのつもりで私は門まで歩く事にした。
それにしても、ヤヤの気配を察知するのが凄いわ。
私の自室は門から1番遠いはず、私も門の気配を探るのにもう10メートルは近づかないと無理。
そしてヤヤと屋敷を歩き玄関を出る。


「確かにいるわね。」
「私達に気がついて慌てていますね。」


2人で玄関を出て歩き出す。
私達に気がついても慌てるだけで、ここから離れようとしない。
きっと誰かに用があるのだろう。
呼び鈴あったわよね…もしかして壊れているのかしら?


「こんにちは。呼び鈴壊れていたかしら?」
「あ!こ、こんにちは!呼び鈴…押してないのでわかりません。」
「そんな慌てなくていいわよ。何か御用かしら?」


めちゃくちゃ慌てる女の人。
腰に剣を下げていて、防具はなし、軽装の戦士系?


「ヤヤみれる?」
「はい…。」


モジモジして一向に要件を言わない女の人。
門越しなので、突然襲われたりはないと思う。
念の為ヤヤに見てもらう事にした。


「…レイラン様。」


耳打ちでヤヤが話しかけてくる。


「え?そうなの?」
「はい。」
「なおさらここに何の用が?」


ヤヤに教えてもらったのは、9番隊隊長であるという事。
場所を知っているのは、一度ここに来た事があるからとして。
この前は全身鎧で顔も見えなかったけど、かなり若い…それにどこかで見た事があるような。


「あの!」
「あ、はい。何でしょうか?」


心の準備が出来たのか、やっと話す気になったようだ。


「シーちゃん……シー・ブルームさんいますか?」
「………あなたはどちら様で?」


喋り出したかと思えばシー・ブルームさんが居るかと言われた。
ブルームさんはいるが、この人の素性をまだ明かしてもらっていない。
そんな人においそれと教えてはいけない。


ヤヤが調べているので、怪しい人ではないのは分かっている。
なので直接聞いた…始めからこうすれば良かった。


「は!失礼しました!私は王国…っと今日は違った。ノイン・スカイ・ブルームと申します。」


今ちらっと王国って…言うのをやめていたので、国王様の用事とかではないのだろう。


「王国…ノイン・スカイ・ブルームさんですね。ブルームさんに何のご用で?」
「あの私、シー・ブルームの姉です。その、会いたくて。ただ何となく…ダメでしょうか?」
「姉上様でしたか。家族に会うのに理由は不要でしょう。ただ今はいないんですよ。」


よくよく見ればどことなく……って、素顔の記憶があまりないわ。
隣にいるヤヤを見て、こくんと頷いている。
嘘は言っていないらしい。


「いないんですね………残念です。いつ頃戻ってくるとか分かりますか?」
「随分前に行ったまま帰って来ていないので…いつとも。」
「え?あれから一度も帰ってないの?まさか、シーちゃんの身に何か…。」
「しばらく狩りをって言っていたので、その内…。」
「何かあってからでは遅いのです!私は行ってきます!ありがとうございました!」


―ガシャ、ガシャ、ガシャ。


目の前に鎧が転がる。
その鎧って確か国宝だって前に言っていたような…。
アイテムに収納しているものを無理やり引っ張り出したか、ガシャガシャと音を立てて床に落ちていく。


「我が鎧よ。力を!装備イクイプ!!」
「その鎧魔力で装備出来るのね。さすが国宝。」
「秘儀の一つよ。緊急時の為のね。」
「そ、そう。」


門越しに挟んでいるが、鎧を着たからか勢が強いな。


「何をしているの?行くわよ。」
「え?私も?」
「そうだけど。あ、馬貸してもらえないかしら?」
「仕事はほぼ終わっているのです。気になるのであれば、お出かけしても大丈夫かと。」
「まぁ気にならなくはないけど。」
「早く!早く!」


私は急かされるがまま、ブルームさんの姉上と西門に馬を走らせるのだった。


なぜこうなったのかしら?

「少年と執事とお手伝いさんと。〜全ては時の運〜」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く