少年と執事とお手伝いさんと。〜全ては時の運〜

ノベルバユーザー458883

92話 鳥に好かれる何か?

王都を出発したはいいものの。
見晴らしい荒野が続くだけ。
木々も無ければ、魔物も見えない。


「これさぁ…いや、何でもない。」


僕は何か言おうとしてやめた。
まだ日も高く、日陰もないので暑い。
風は吹くが、砂っぽい。


出発して1時間歩き続けて、山の入口らしき場所に着いた。


「……着いたね。」
「ご飯になりそうなお肉も無いし、さくっと倒して戻ろうよ。」
「そうだね。それにはまず、目当ての魔物を探さないと。」
「うん。どこに行けばいいのかな?」
「エッジの話では、山を登る途中に断崖絶壁の岩山があるらしい。」
「じゃ、そこまでサクサク行こう。」


元気に歩き出すシー。
一応皆んなの様子を見て、休憩はいらないみたいだからシーに着いて行く。
こんな何もないところで休みなら、皆んなも早く終わらせたいのかもしれない。


「ソラヤ。事前に分かっている事は少ないとは思うが、何か考えがあるなら今のうち聞いておきたい。」
「そうだね。とりあえず重要なとこは伝えた方がいいかな。うーん、クロイとローゼは話を聞いてもらって、他の皆んなは周りの魔物がいないか警戒しておいて。」


シーとナイト、お父さんとお母さんペアで周りの警戒を任せる。
僕自身も危険察知や気配のスキルがあるから、何かあれば反応できるようにしておくけど。


「魔物なんだけど、警戒心が高くて逃げる可能性が高い。空を飛ぶ鳥と言う事は分かってるんだ。」
「ふむ。それはエッジらが言っていたことだよな?後は2度の遭遇は難しいと。」
「そうだね。だからまずは動きを止める事。理想はローゼの鞭で拘束したい。」
「分かった。しかし警戒心が強いのに近くまで寄ってくるかだな。」
「そうなんだよ。だから空から様子見で、こっちに近づいてこない可能性もあるんだよ。」
「そうなると、さらに遠くから引きずり落とすかだな。」


ローゼの鞭の射程は2m前後。
警戒心がある魔物であれば、人が7人いるところに突っ込んでくるとは思えない。
ただ、大人数いても対象が年寄りや小さい子供がいると向かって来る事例もあるみたい。
その辺の話は一応共有しておく。


「ほほ。それは私の仕事ですかね?」
「そう。空中で様子を見られた場合は、クロイの魔法で地面まで落として欲しいかな。」
「そうなると、闇の重力系か、雷の麻痺でしょうか。」
「イメージがあるならクロイに任せるね。」
「あぁ。任せろ。」
「言っておくがクロイ。地形を変えるほどの魔法はダメだからな。」
「…ほほ。善処しましょう。」
「「……。」」


少し間が木になるところではあるけど、こればっかりは精霊達の頑張りによるところだから。
ただただ祈るだけである。


「じゃ、2人はそんな感じで。前の4人にも同じような事を話してくる。警戒はよろしく。」
「「了解だ。」」


と言っても、前の4人は基本的にフィニッシャーのシーとナイト。
魔物が突撃した際の盾を頼むくらいしか無い。
難しい内容は、僕に任せてもらい合図を出すまで待機とざっくり説明だけした。


慣れたもので皆んな同じ答えを返してくる。


「「「「ソラヤに任せるよ。」」」」
「あーうん。任せといて。」




そして山道を進んでいくと、開けた岩場に出た。


「ここは…休憩ポイントなのかな?」
「ですねかな。ここに焚き火の形跡もある。」


クロイと辺りを見て回る。
そして直ぐ側に不自然切れ目がある。
あまり登ってはいないけど、これが断崖絶壁って言えばそう見える。


「断崖絶壁って山道の途中だと思ったんだけど。」
「わたくしもそう思ってましたが、これの事では無いですか?」


下が見えないので、試しに石を投げてみた。


―ゴン、ゴツン…ゴン……ゴ………。


「かなり深いですね。」
「みたいだね。少しここで見張る………!!どうやらここらしい。」
「ほほ。わたくしも感じます。下ですね。」


石を投げた後、スキルが反応した。
おそらく空に逃げるから、山頂の何処かに巣があると思ってたけど違うみたいだ。


「お母さん!下から来る。見れたら教えて。」
「ここ見るの〜!?怖いなぁ…でも頑張るよ。」
「お父さんはお母さんの近くに、飛び出してきたらいつも通りで。」
「了解だ。」
「皆んなお父さんの後ろに。間違っても崖に近づかないで!」


―ピィーゥ……。


鳴き声か?魔物がだんだん近く速さ的に……


「お母さん下がって、空に上がるよ。」


―ピィーゥ!!!


空に上がり、大きく翼を広げる魔物。
全身は黒みがかった赤茶色で、くちばしの根本と足は黄色、くちばしの先端は黒い。


「ハーピー・イーグル?」
「名前は『ゴールデン・イーグル』だよ。レア度AのLv56!」
「ふむ。その名であれば『イヌワシ』ですかね。広範囲縄張りを持ち、獲物を空から急降下で狙います。」


クロイの説明の後、様子見を終えたゴールデン・イーグルが僕達に目掛けて急降下してくる。
狙いは…っち!


「シー!下がって!ローゼ!シーに近づく前に捕まえて。」
「私か〜鳥に好かれるのかな?」
「呑気な事言ってないの。ほら下がるわよ。」


ナイトがシーを掴み、一緒に下がる。
それでも尚、シーに向かってくるゴールデン・イーグル。
その射線上を狙い鞭を構えるローゼ。


「クロイ、魔法の準備。合図で撃ってもらうから。」
「ほほ。了解だ。」


2手、3手と何が起こってもいいように、対処を考える。
ここで逃せば次は難しくなる。
退治しようとすれば、この崖を降れば良いかもしれない。
正直、今まで誰も出来てないことから無理なんだろうと思う。


「ここで決めるよ!!ローゼ!」
「任せ…ろ!」


―ピィーゥ!?バサァ!!
―ヒュルゥゥ…スパン!


「む!一撃目を避けるか、しかし甘い!」


―ヒュルゥゥ…ピシ!


『ピィー!!!』


空で翼を広げ、急停止したゴールデン・イーグル。
再び空へ上がろうとするも、ローゼの鞭の方が早く、その身を拘束される。


「シー!ナイト!」
「「おまか…セィ!!」」


―ドド、ドゴン!!


『ピィーグゥ!?』


「拘束解けるぞ!」
「了解。クロイよろしく!」
「あぁ!闇さん頼みます!…縫いつけるソーイング


―ズズッ…ズゥゥン!バキ!


『ピィ…ピィ!』


闇さん?目には見えないけど、沈んで地面に食い込んでいるから重力が効いているんだろう。


「まだいきますよ。雷さん。雷の通り道サンダーストリート


―バチ、バチ、バチ。


「この球は雷?」
「えぇ。まだこらは準備段階ですが。あ、皆さま。球の間には近づかないで下さいね。」
「なんで?」


―バチン!


一つの雷球が光り、二つ目の球に線が走る。


『ピィギ!?』


―バチン!


二つ目の雷球が光り、三つ目の球に線が走る。


『ピィギ!』
「これって…」
「そもそも雷は電位差が生じた場合の放電による現象の事を言うのです。」
「え?あーうん……。


唯一分かっていそうなのは、ローゼのみ。
皆んなクロイの説明で疑問そうな顔をしていた。
顔を見合わせても首を振るだけ。


「簡単に言えば、雷が行き来する道を作ったのです。」
「その結果が、この状況と?」


飛ぶ為に羽を広げようとしているが、重力によって羽ばたく事が出来ずにいる。
そして、今や三つの球からの線で三角が見える雷。
クロイ言うに、光の速さなので残像でそう見えるだけだと。


結果的に頑張って逃げようとしているが、重力と雷で身動きの取れないゴールデン・イーグル。
そして、僕らは手出しができない状況。
これでダメージも入って、拘束出来ているならしばらく様子を見るしかない。


もがく魔物を見守る僕らは、少しクロイの理不尽さに同情してしまいそうになる。
まぁとっても頼もしい限りではあるから、誰も何も言うことは無い。



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