少年と執事とお手伝いさんと。〜全ては時の運〜

ノベルバユーザー458883

72話 昨日の自分より強く。

長閑な旅路も、王家の大臣との遭遇で終わった。
道を譲らなかったと言う何とも理不尽な内容で、馬のアオに斬りかかった変な人だった。
今は僕ら7人とアオ、仮面の人で食事をしている。


「え?俺も食べていいのか?」
「え?食べませんか?」
「いや、仮にも君達を襲った相手なんだが…。」
「別に今は襲わないですよね?いろんな実験も…特訓も出来て、気は済んでるんで。遠慮せずどうぞ。」
「……申し訳ない。いただきます。」


目の前のスープに手を伸ばし、ゆっくりと飲む仮面の人。


「美味いな。スッキリした喉越し、この肉も柔らかく、葉の野菜がまた優しい味わいだ…。」
「気絶して起きたばっかりだから、肉は少し柔らか目に煮込んだんだよ〜。美味しいなら良かった。」


なんだか物凄く、味の解説をする人だった。
お母さんが作ったのは、前の村で大量にあった狼の肉と、白菜の様な葉の野菜を煮込んだスープ。


「お気遣い感謝します。しかし、このスープは王都の料理では味わえない…何と言えばいいのか。」
「お母さんの料理は、家庭的な料理だし。お店みたいな作り置きとは違うのかもね。」
「そうか。これが家庭の味と言うやつなのか…。」


王都の料理を食べた事はないが、前の町の宿で出て来たのは大量に作り置きしたものだったから。
お母さんの料理が、家庭的である事は分かる。
その味をゆっくりと味わう仮面の人。
こう見ると本当にあの大臣に仕えていたのが、疑わしいくらい良い人に見える。


「一つ疑問なんだけど。仮面のお兄さんは、なんであの大臣といたの?」
「要人護衛って言う仕事だからだな。ギルドに頼まれて道中の警護を任されていた。」
「ふーん。あの兵士2人じゃ、魔物に囲まれたら頼りないし。お金で雇った用心棒って事かな?」
「あぁ。概ね、そんな感じだ。」


ギルドでの依頼か。
王都に行ったら、依頼を受ける人の人格も考慮して欲しいとお願いしておこう。


「ふぅ…美味かった。」
「落ち着きました?」
「あぁ。お陰様で。私からも一つ聞いてもいいでしょうか?」
「僕らに答えられる事なら。」
「私が倒れた後の事を、教えてもらえたらと。」
「それならいいよ。」


僕はそう言ってついさっきの出来事をはなす。









兵士2人と大臣はすぐに無効化した。
シーとナイトとローゼが対応したんだけど、無傷で返した…とは言わない。
兵士は剣を折られ、ガチンコバトルでほぼ一方的に殴られていた。
ローゼは相手が謝るまで鞭で調教…ん、指導した。


その後の事は、僕と仮面の人の一対一を観ていたらしい。


ただ、始めのうちは大臣達も興奮した様子で応援をしていた。
しかし観てるうちに静かになった。


攻撃が全て避けられたからなのか、目で追えない速度だったからかは分からない。
そして1時間くらいやりあってる中、僕が銃で攻撃を受けて仮面に向けて発砲。
仮面を砕き倒れた男を見て、そそくさと馬車に乗り込み逃げていった。


別に拘束も捕まえる気もない僕らは、その馬車を見逃した。
そこで近づいてきたローゼが一言。


「何も殺さなくとも…。」
「いやいや、殺して無いよ?銃だって弾は込めてないから。」
「ん?仮面は砕けて、倒れているんだが。」
「魔力をちょっと込めて撃ったけど0距離だからね。気絶してるんだと思う。」


銃に弾は込めず、魔力を少しだけ込めて撃った。
やった事はないけど、空気の弾を撃つイメージでやってみたら出来た。
もちろん『手加減』のスキルは使ったけど。


念の為、お母さんに見て貰い回復はした。
けど起きる気配がない。


「あの大臣達逃したのは良いんだけど。この人どうしよう?」
「あいつらも王都に帰ったみたいだし、王都に連れて行けばいいだろう。もしくは起きたら本人に決めさせる。」
「ローゼは優しいね。別に私達を襲った奴らだしほっとけば?」
「ナイトそれだと足りないよ。地面に埋めておこう。」
「……まぁ、僕を殺す気は無かったぽいし、ローゼの案でいこう。」
「ソラヤも優しいなー。」









「って感じ。」
「そうなると気絶した私を馬車の上に乗せ、監視役でナイトさんをつけた感じですか。」
「うん。一応暴れたりした時、対処できるようにね。武器は無いけど、不意打ちでもそれなりにダメージは食らうから。」
「そうでしたか。」


少し考え黙る仮面の人。


「失礼ですが、私が暴れて止める役がナイトさんなのは?」
「そりゃ、ナイトが強いから。」
「えっへん!」
「ソラヤさんよりもですか?」
「え?無理無理。ソラヤには勝てないよ。」
「そんな事は…。」
「攻撃が当たらんのに、どう勝てと?」


考えた結果が護衛をしたナイトについて……逃げるつもりなのかな?
ナイトが僕よりも強いか確認したみたいに思う。


ちなみに、ナイトとは一度手合わせをしている……命がけの。
始めは手加減して、拳を繰り出していた。
それを全て避けるうちに、拳の速さが上がり、挙句魔法を手に纏わせて。


「あれは怖かったなぁ…当たれば死ぬって必死だったよ。」
「にゃはは。私もついついムキになっちゃって。」
「であれば、1番強いのはソラヤさん?」
「ん〜どうだろう。誰とどう戦闘するかで変わるし。」
「そだね〜ソラヤはブルームに勝てないもんね。」
「そのブルームさんとは?」
「ん?呼んだ?」


お父さん達と話していたシーが、こっちの話に加わる。


「私の事呼んだ?」
「んにゃ。ただ私はソラヤに勝てないけど、ソラヤはブルームに勝てないよなって。」
「私のは勝ち負けとかじゃ…。」
「そうか。ただいちゃついて―むぐぐ。」
「ナイト〜向こうに行こうか〜」


素早くナイトの口を押さえて、引きずって向こうに連れて行かれた。
何かまた余計な事を言おうとしたのだろう。ナイトも懲りないな。


「今の口を塞ぐ動作が見えなかった。しかも暴れるナイトさんを引きずるあの力…ブルームさんが1番強いのか。」
「さっきも言ったけど、強さなんて1番とか決めるものじゃないよ?」
「そう言うものですか?でも冒険者なら勇者を目指し、強さを求めるものでは?」
「僕らはパーティだし、皆んなで強くなればいいよ。それに勇者って強いの?」
「え?人間の中では最強だと思いますよ。」
「ふーん。人間の中ねぇ。」


この仮面の人は何を考えているのか、それが少しずつ分かってきた気がする。
目指す所が低いって言うのかな?
でも勇者って一人だし、勇者じゃない人が弱いって事になるけど。
ん〜なんて言えばいいか…どう話すにも僕は勇者の事を知らなすぎる。


「一つ確認したいんですが、勇者は人間の中で最強って事?」
「私はそう思ってます。」
「じゃーこの世界で強いと思えるのは?」
「勇者と…魔王くらいでしょうか。」


この人の中では魔王も人の部類なんだ。
それなら話やすいかな。


「僕は強いと思う。で止めたんだけど、そうだなぁ…ハッピー・イーグルは強い?」
「あの南に出ると言うレア度Aの魔物ですか。実際戦った事ないですが、強いと思います。」
「あれ、僕らパーティで3匹倒してるよ。」
「え!それは凄い…。」
「後は……知ってるかな?ジル…龍神は?」
「強いです。でもあれは、人がどうにかできるものでは無いかと。」


ジルの評価やばいな。僕はそんなのにLv10で戦ったのか…この話はしない方がいいな。


「最後に質問。何が1番強い?」
「勇者は龍神に負けたと聞きますし、魔王か龍神でしょうか?」
「魔王と龍神だとどっち?」
「え?どちらもではダメなのです…あ。」
「気づいた?別に1番は決めなくていいんだよ。それに強さの限界が勇者でいいの?もっと上にいきたくない?」
「…………。」


色々遠回りだけど、気がついてもらえた。
1番がどうじゃない事。
勇者を少し貶したみたいに聞こえたかな?
でも上には上がいるし。


「ソラヤさんが強い…いえ、僕が勝てなかった理由が、少し分かった気がします。」
「まぁ昨日の自分より強くなればいいだけ。限界はどこかなんて決めなくていいでしょ。その方が楽しいし。」
「楽しい……ですか…そうですね。」


何か色々考え込んでいたみたいだけど、これで少しスッキリしたかな?
なんか偉そうな事言ってるけど、僕自身が強さが分からなくなった。
今答えを出す必要はないから、今後も考えてみようかな。
当面の目標はジルにリベンジ。
その先はまた決めればいい。



「少年と執事とお手伝いさんと。〜全ては時の運〜」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く