無敵のフルフェイス

ノベルバユーザー458883

138話 荒ぶるフルフェイス

 魔王との一騎討ちになった。何故?


「こんな人間に!」


 ―バチ!


 お互い魔法剣だから、魔力がぶつかり合うと何かが弾ける感じになる。


 何度か剣を交わして、相手には届く。届くんだけど……


 ―ガキン!


「ぐぅ!」
「どんな構造してんのさ。硬いとか言うレベルじゃないよ。」


 劣勢ではないが勝つためには後一歩足りない。


 何かいい手はないかな……






 ♢


 先手はウイユと一緒に取ったけど、攻撃は効いていなかった。結果的に忍と魔王の一騎討ちみたいになっちゃった。


「……忍だけに戦わせちゃってるわね。」
「師匠の速さには追いつけですし。魔法で援護もきっとリズムを崩しちゃうだけなので、下手に手出しは出来ない感じがするです。」
「お二人がそう言うのであれば、私は見ている事しか出来ませんね。ですが、見ているだけと言うのももどかしい。」


 セローもハイヤーもうずうずしている感じが伝わってくる。私も忍の横で戦いたい。けど多分それは守られるだけで、負担になっても助けにはならない。


「劣勢って訳じゃないけど。なんだか違和感があるわね。」
「そうですね。師匠相手にあそこまで頑張れる魔王は凄いですけど。」
「この様な時にアイさんがいて頂ければ……」
「アイさんどうかしたの?」


 ハイヤーがセローにアイさんについて話す。


「そっか。それで師匠の強化は少しだけなんだね。」
「そうなのセロー?」
「です。いつもより勢いがないです。いつもはもっと振りきれてる感じです。」
「それじゃ忍はその少しの強化で戦っているの?」
「です。」


 言われて見れば少し勢いに欠ける気もする。あれだけ戦えているからそれを疑うのは私達くらいか。
 それにしても強化が少しなのもびっくりしたけど、ほぼ素の状態であんなに強いなんて。


「そうなれば強化がいつも通りなら?」
「この状況は変わると思うです。でもアイさんはいつも師匠と一緒でしたから、呼ぶ事も出来ませんです。」
「アイさんねぇ……」
「…………」


 隣にいる子を見ると、話を聞いていたのか目を逸らす。緊急事態と言うかこれしかないわよね。


「ウイユ。」
「は、はい。」


 私はウイユに近づき、周りに聞こえない様に耳元で囁く。


 ―…………。


「何故それを……」
「忍だけ様付けだし。」
「プリンシピオ様にも付けていますよ!」
「それならレブルとセローにハイヤーは?」
「だ、誰でも様を付けて呼ぶ訳では……」


 確かにそうか。これじゃ弱いわね。


「エストレアは?」
「エストは……あ。」
「エストレア様じゃなくて、エストね。会った事も話にも出てきてないはずだけど〜」
「私をはめましたね!」
「周りに聞こえちゃうわよ。」
「ふぐ。」


 結構可愛いところがあるのね。でも色々と抜けていたし、想像通りと言う感じね。


「ウイユ。私にできる事は何かしら。」
「……仕方がありません。私も忍様だけに戦って頂く
 のも心苦しかっただけですから!」
「そうね。」
「この事は皆様には……」
「何かあるのかしらウイユ?」
「ありがとうレブル。トパーズ様、ルビー様にプリンシピオ様。私を守って下さい。」


 3人に簡単に説明して、ウイユは手を重ね天に祈る様にしゃがみ込む。


「セロー、ハイヤー。戦う準備しなさい。」
「ほへ?はい!」
「私はいつでも出来ています。」


 それぞれが武器を持ち立ち上がる。


 ♢






『忍様!』
「アイさん!」


 このタイミングで!助かる!


「空間把握お願い。後、強化も。自分じゃうまく力を出しけれなくて。」
『お任せ下さい!エリアコントロール!オートマティックリカバリー!ノンリミット!』


 視野が一気に広がり、少し怠くなる体が少し軽くなった気がする。だけど……ここからが本番だ。


『マッスルレインフォース!』
「さっきから1人で何を!」


 ―パシ。


 魔王の剣を片手で受け止める。


「何だと!?」
「相棒がいるから。」
『忍様。レブル達にフルフェイスを。』
「その手があったか!コレクト!」


 ―ズズ……


「どこだったか……あったあった。レブル!」


 ―ヒュン!パシ。


「あ、そう言う事ね。」
「ハイヤー!」


 ―ヒュン!パシ。


「お任せ下さい。」
「セローいくよ!」


 ―ヒュン!パシ。


「これは?」
「いいから被って。」
「シノブさんとお揃いですよ。」
「青い兜……師匠とおんなじで、ハイヤーと色が似てる……」
「そう言えばそうですね。私のは紫色ですから。嫌ですか?」
「そんな訳ない!」


 セローが被ったのを確認して意識を繋げる。


「アイさん!」
『リンク!』
「先行くわね。」
「私はセローさんに説明してから行きますね。」
「わわ!身体が軽い!」
「セローさん、まだ動いたり魔法を撃ってはダメですよ。」


 遠くで話す皆の声が聞こえてくる。


 ―ッス!


 僕は魔王の左に動き、道を開けた。


「そんな動……」
「遅い!てあ!」


 ―バキィ!ドゴォォン!!


「ごはっ!?」
「これでも斬れないわね。」
「でも効いてるよ。このままいこうレブル。」
「ええ!」


 崩れた壁から這い上がる魔王の顔は、さっきまでとは違う焦りの色が見える。


「さぁ起きて頂きますよ。」
「ぐ!振り解けんだと!」
「せーの……ひゃぁぁ!?」


 ―バァシャァァン!ドゴォォォォ!!


 ハイヤーの黒い手が魔王を抑えて、水の魔法で加速をつけたセローがそのまま魔王に突っ込む。


「ハイヤー説明したんじゃ?」
「したんですが。」
「ちょっと失敗。戻るねぇぇぇ!?」


 ―ビュン!


 魔王から距離を取ろうと下がったセローは壁まで一直線。


 ―パシ!


 ギリギリの所でセローを黒い手で受け止めるハイヤー。


「ごめんねハイヤー。ありがとう。」
「ですから、あまり無理な動きはしない様にと……」
「無理じゃないかなぁって思った!」
「シノブさんの弟子ですから、仕方がない事ですかね。」
「ありがとう〜次はうまくやるね!」
「あまり期待しませんので、思うままに動いて下さい。受け止めます。」
「うん!」


 元気満々なセロー。ある程度の予想はしていたが、ぶっつけ本番だとやっぱりこうなるか。でもセローはハイヤーに任せれば大丈夫だろう。


 ―ガラ……


「がはっ!?この私が血を流すだと……どうなっている。」
「それはこっちが聞きたいよ。斬れない身体に、その後ろの結界も。」


 崩れた壁の後ろには結界。魔王は外まで吹き飛ばずその結界に埋れた形になっている。おそらくあの結界が勢いを殺して、魔王へのダメージを軽減しているんだろう。


「何でもいいわ。これなら一緒に戦える。」
「そうだね。頼もしいよ。」


 セローをハイヤーがサポート。レブルと一緒に剣を構えて、僕らの反撃が始まる。

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