無敵のフルフェイス

ノベルバユーザー458883

131話 禁断の果実

 セローと無事合流した僕らは、コロシアムの外れにある家に降り立つ。


「ただいま。」
「今日は早いねぇ。」
「今日は送って貰ったの。」
「あやつらも少しは気の利いた事を……」
「あ、違うんだ。私の師匠に送って貰ったの。」
「師匠とな?セローちゃんの待ってた人が、迎えに来たのかい?」


 外まで聞こえる声で話していたセローと誰か。ガラガラっと扉が開き、中からお婆さんが出て来る。


「これがセローちゃんの……龍?」
「「ん?」」


 出て来たお婆さんが、トパーズとルビーと対面する。


「り、りゅぅぅぅぅぅ!?」
「お婆さん!?」
「がはは。こんな驚かれるなんてな。」
「これが普通の反応よね。」
「とりあえず人型になれる?」
「しょうがないわね。」


 ―ボォン!


「これで良いかしら。」
「ルビーさんは人になれるんだね!凄いです!」
「ま、まぁね。」
「赤い髪で、小さくて可愛いです!」
「可愛いって……」


 純粋に褒めるセローに、顔を少し赤くするルビー。そしてその視線は地龍であるトパーズにも向く。


「そんなピュアな瞳で見られてもなぁ。あまり得意ではないのだが、仕方がない……むん!」


 ―バキィ!


 何かが砕ける音がした後、トパーズがみるみる小さくなっていく。ルビーはもくもく何か出してたけど、それがないんだなぁ……あ。


「ふぅ……この姿も久しいな。んー!」


 ―バキ、バキ。


「あー体ばきばきだのぅ。」
「体をほぐす前に服着ようよ。」
「服なんぞ持ってないぞ。」
「しょうがないなーこれでも着てよ。」
「シノブはなんでも持っているな。」


 トパーズに合いそうな、簡単な浴衣みたいな羽織りものを渡した。


「ふむ。いい感じだ。少しすーすーするが。」
「トパーズさんは随分と……逞しいね?」
「そうか?体を鍛える事は強さの秘訣だからな。」
「そう……だね。」
「セローそんなまじまじと見ないの。トパーズ、前を閉めなさいよ。」
「おっと、これは失礼。」


 はだけないように帯を渡す。言わなくても押さえるものだと理解したのか、腰あたりでしっかりと結ぶ。


「これでいいか。」
「その服……なんでもないわ。」
「それならいいわ。」
「レブル〜?手を話してよ〜」


 目隠しされたセロー。レブルが手を離すと少し下がる。


「私だとよく分かるね。」
「師匠と同じ格好だし、赤い剣を持った人ってレブルかなって。」
「そう。それじゃあっちのは誰か分かる?貴女の事を凄く心配してたのよ。」
「レブルさん!?」
「分かるよ……」


 セローはゆっくり歩いて、紫色の騎士の前まで歩いて行く。ゆっくり手を取る。


「ごめんね。」
「セローさん。私はそんな言葉が欲しくて、ここまで来た訳ではありませんよ。」
「…………ありがとうハイヤー。」
「ご無事でなによりです。」
「へへ。」


 照れた顔のセローに、頭を優しく撫でるハイヤー。


「良い雰囲気じゃないの。」
「そういうのは口にしないのよルビー。」
「ルビーは無粋だな。」
「トパーズ?」
「なんでもない。それよりあの娘を放っておいて良いのか?」
「娘?」


 トパーズが指を刺す方向を見る。お婆さんしかいないけど?


「トパーズ。あれは魔族の中でも上の女性よ。」
「なんだオババか。」
「誰がオババじゃ!」
「起きたな。」
「ん?龍がさっきまで居た気がしたが。」
「夢だろオババ。」
「オババはやめ!私にはプリンシピオって名前があるんだよ。プリンちゃんと呼んでくれても構わないよ。」


 プリンちゃんって、見た目からはとてもじゃないけど呼びづら……


「それではプリンちゃん。」
「呼ぶんだ……」
「何故だ?そう呼べと言っているだろう。」
「兄ちゃんは失礼な奴かと思ったけど、話は通じるようだね。名前はなんだい?」
「トパーズマーガレット。トパーズで良い。」
「カッコいい顔の割に、可愛らしい名前ねぇ。」
「お互い様だろう。」
「そうね。ささ、中に入んな。」






 みんなで中に入り、プリンシピオさんが料理を出してくれた。そう言えば朝からなにも食べてなかったな。


「ごちそうさま。美味しかったです。」
「そうなの。ばぁちゃんの料理は美味しいの。」
「これ、セローちゃん。プリンちゃんでしょ?」
「そうだった。プリンばぁちゃん。」
「ん〜〜〜可愛いからいいか。」


 セローにだいぶ甘いプリンシピオさん。孫に甘いのは昔からなんだろう。僕も叔母は優しかった記憶しかない。


「それでこれは真面目な話なんだけど。いつ帰るんだい?」
「プリンばぁちゃん……」
「なにしみったれた顔してんだよ。待ち人が来るまでって話だったでしょう。最後くらい最高に旨いもん食べてもらわなきゃね。」
「うぅ……プリンばぁちゃん。」
「ほらほら、泣くんじゃないよこの子は本当に……」


 なんだか本当の祖母と孫に見える。会ってあまり時間も経ってないはずだけど。


「ほらほら!湿っぽいのはやめやめ!美味しい果物があるんだったわ。お口直しにどうだい?」
「そうですね。いただきます。」
「僕も貰いますね。」


 ―モグモグ……


「甘酸っぱい感じで、さっぱりするね。」
「風味は木の実の様な香りなのに。不思議ですね。」
「ハイヤーも師匠もそれ食べられるんだ。」
「「え?」」
「大人の味だからね。セローちゃんには早いのよ。」
「私、子供じゃないよ?」
「そうだね〜」


 頭を撫でられるセローだったが、どこか納得いかなそう。プリンシピオさんからすれば、誰でもお子様なんだろう。


「黒いの。今何か失礼な事考えてないかい?」
「いえ!?僕は別に……」


 ―ガシ!


 心を読まれたかと思い慌てていると、腕を強烈な力で押さえ込まれる。


「忍ぅ……」
「どうしたのレブル?顔が赤いけど?」
「どうもしないわ〜ただこうしたいだけよ〜」
「ふふふ。この子は甘え癖なんだねぇ。普段から甘えさせてあげてないだろう?」
「ちょっとプリンばぁちゃん。どういう事ですか?」
「お師匠さんにそんな呼ばれ方されるのも……ありかしら。」
「師匠。これだと思う。」


 セローが黄色い果物を持ってくる。これはさっき僕とハイヤーが食べたものだよね?


「魔ルーラって果物で、食べると眠くなるんだよ。」
「はっはっは。違うよ。食べれば体の中で発酵して、酔った感覚になるんだよ。セローちゃんは眠くなるだけさ。2人は特に変わらないところを見ると、それなりに強いんだろう。」


 なるほど。酔っ払っているんだね。前にお酒を飲んだ時、レブルは思いっきり甘えん坊になってたなぁ……有りだ。


「にゃによ、これぇ……めのみゃえが、ぐるぐる〜あはは。」
「…………。」


 ルビーは呂律が回らず、ぐるぐる回りながら笑っている。あんなフラフラしてたら気持ち悪くなりそう。トパーズは喋らないきっと僕らと同じく、強い……


「ダメだ……」
「どうしたの?」
「もう……すまん。」


 ―バキバキ……


 トパーズの体からバキバキと音がする。この音どこかで……


「魔力を維持できん!」
「ちょ!!」


 ―バキィィン!ドカァァン!


 プリンおばぁちゃんの家が吹き飛びました。







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