無敵のフルフェイス

ノベルバユーザー458883

110話 町の一大事。

 遅めの朝食を終えて、僕らは降りて行く。


「随分とゆっくりな朝で、ぐほぉ!?」
「まだゆっくりしててもいいんですよ?」
「そういう訳にもいかないわ。私達にはやるべき事もあるので。」
「あまりゆっくりも出来ないけど。今日くらいは……」


 階段の降りる時から感じていたが、レブルの足取りがフラフラしている。


「昨日はちゃんと歩けたはずなのに。」
「誰しも初めはそんなものよ。」
「そうなのかしら?」


 昨日声を掛けてきた店員さんが、カウンターの奥から話しかけてくる。


「いきなり過ぎたかしらね。」
「やっぱり初めは少しずつの方が良かったかな?」
「そうでもないわ。次は上手くやるわ。」
「そう?昨日でコツは掴めたんじゃない?」
「走り始めればね。」
「走り始めたら?」
「「ん??」」


 昨日の北の町から強化して走ってきた事を見抜いている?
 この人は魔力について詳しいのかな?魔族って言うくらいだから、魔力の流れに敏感なのかも。


「あ、昨日はありがとうございました。」
「昨日?」
「色々と気遣いしてもらって。」
「あぁ。宿の女将も長いからね。見ていれば大体わかるもんさ。」
「そうなんですか。」


 魔界の女将は凄いな。


「足少しふらついてるわね。大切な人ならしっかり見てやんなよ。」
「もちろんです。」
「その格好で町を歩くなら、尚のこと気をつけなよ。」
「はい。少し出てきます。」


 そう言って宿を出たが、やっぱり歩きづらそう。転んじゃ危ないし、腕を出した。


「転んじゃうと危ないし。」
「そ、それなら……」


 出した腕を絡ませて、腕を組んで歩き始める。


「建物とか人間の世界と変わらないんだね。」
「人も親切だし。魔界って感じがしないわね。」


 宿を出て当てもなく歩き出した。建物は変わらずだけど。


「視線を感じるのは何でだろうね?」
「女将さんも言っていたけど、この格好だからかしら?」
「町を歩く時も普通の格好の方がいいのかな?」
「注目を集めるのは好都合じゃない?セローを探す上でも目立つ必要はある訳だし。」
「ならこのままでいいか。とりあえずギルドぽいところに行きたいね。どこにあるんだろう。」
『魔力が若干強い者たちが固まる建物であれば、この先の道を左にあります。』
「お、とりあえずそっちに行ってみようか。」


 アイさんの言う魔力が強い人が集まるところに歩いて行く。






 木造の大きな集会場みたいな建物の前に来た。


「ここかな?」
「ギルド支部みたいな作りだけど。」


 ―ギィィ……
 ―ザワ……


 レブルが腕を解いて僕の後ろを歩く。入ってすぐ色んな視線がこちらを向く。


 中を見渡す。


 4人掛けの机が何個か並び、中央はカウンターまで広く空いている。壁際には貼り紙がされている。


「まさにって感じだね。」
「カウンターに行ってみましょう。」


 ―カツ、カツ、カツ……


「……騎士様。本日はどのような御用件でしょうか?」
「この町に初めて来たんですが、ここはギルド支部で合っていますか?」
「ギルド支部?」
「町の案内所と言うか、魔物の討伐依頼みたいな事をする場所と言うのかな?」
「案内は特にしていませんが、魔物の情報は扱っています。」


 どうやらギルドって概念はないみたい。同じような事しているから何でもいいか。


「この町の地図ってありますか?」
「そこに貼ってあるものがありますが。」
「これって貰えたりする物ですか?」
「地図を?それ一枚しかないので、お渡しする訳には……」
「そうか。なら仕方がない。どこかに売っていたりしますか?」
「地図を欲しがる人が居ませんから。商業施設にもないと思います。」


 地図がないのか。あると便利なんだけど、無いなら無いでしょうがないか。


『少しお待ち頂ければ記録します。』
「お願いするよ。」
「え?」
「いや、こっちの話です。」


 アイさんのおかげで道に迷う事はなくなりそうだ。さてと、何か討伐依頼でもして名を残しておきたいんだけど。


「何か大きな討伐依頼はありますか?」
「今ですが討伐依頼は全て止まっています。」
「え?何かありましたか?」
「町で大規模な地震があり、現在その調査をしているので。」
「……地震。」
「町を出てすぐの街道には、大規模な地割れの跡も確認されています。その為、戦士の方々はこうして集まって貰っている訳でして。」


 それでここに魔力の強い人が集まっているのか。


「大きな地震があると何かあるんですか?」
「この町は昔にある争いがありました。」
「ある争い?」
「地龍が町を壊滅させたと言う……龍族はこの世界で最強と言われ、倒す事が出来ず。先代の魔王様がこの地に封印をされたのです。ここ数百年は地震もなく、落ち着いていたとされていたのですが。」


 ふむ。その地震が地龍復活の予兆で、町を救う為にこれだけ戦う人が集まっていると言うことか。


「騎士様達はすぐにこの町を出発された方がいいと思います。」
「何で?」
「ここには初めて来たんですよね?地龍が現れるかもしれないんですよ?」
「みたいだね。それなら戦力は少しでも多い方が良いでしょう。」
「え!?一緒に戦ってくれるのですか?」
「地龍が現れて、倒したとなれば目立つかな?」
「目立つ?それはもう凄く目立つかと思いますが……倒す?」


 これはちょうどいいイベントだ。


「レブルも良いかな?」
「構わないわ。でも地震って……」
「何かある?」
「一ついいかしら。その地震って昨日の夕方にあったやつかしら?」
「そうです。騎士様も感じましたか?」
「…………えぇ。」
「え?昨日の夕方にあった?」


 昨日この町に着いた時だし、レブルが感じたのに僕が感じないなんて事あるかな?


「とにかく、いつ現れてもおかしくありません。突然ではありますが、町の一大事に来てくださった騎士様に感謝を……」
「いやいや。これも何かの縁でしょう。じゃ準備でもしておこうか。」
「……そうね。」


 地龍か〜町にとっては一大事みたいだけど、この機を逃さず目立てるチャンス。レブルの体調も万全ではないから、しっかり準備しておこう。



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